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【火曜日更新】ピリカの荒ぶりエッセイ~⑫

真夏日こそ、優しくなろうぜ!荒ぶる火曜日

暑い、熱い。
いや、もう痛いほどの日差しである。
今年の夏は、大雨がやっと止んだと思ったら、次は生命にかかわるほどの酷暑が続き、私の市の救急車は日に何度も何度も出動していて大変そうである。

皆様は、ご無事だろうか。

今日も暑さに輪をかけて、メラメラと熱く燃え上がる荒ぶりエッセイを書くことをお許しいただきたい。


その時、私は急いでいた。

午後3時の真夏の日差しに背中を焼かれ、
コンクリートから立ち上る照り返しにむっとしながら駐車場まで歩く。

片手にはビジネスバック、もう片方にはPCバック。これがまた重いんだわ。
個人情報が入っているから片時も置きっぱなしには出来ないのだ。
駐車場前は横断歩道。全てがゆらゆらとした蜃気楼のようで、ついつい意識が朦朧としてくる。
日陰もないから、全身で日差しを受け止めるしかない。

信号は、赤にかわったばかり。

  汗でストッキングは足にびっしりと張り付き、不快この上ない。5センチヒールの靴底は地面から暑さが伝わってきてまるでフライパンで焼かれているようだ。

首にかけた社員証の紐が、汗で擦れて気持ち悪い。

ああ、はやくジャケットを脱ぎたい!

私は車で冷房をMAXまで強くし、ノースリーブで冷たいコーラをがぶ飲みしようと決めた。そして「I feel coke」となつかCMばりに爽やかに笑ってやる。

まだ赤信号。

今日もがんばったもん、冷房くらいガンガン効かせても罰はあたるまい。一気飲みで後から腹を壊したって、この暑さをいっときでも逃れられるなら本望。

   会社を出るときに自販機で買ったコーラはバッグのなかで「アタシ冷たいよオッ!!」といわんばかりに黒いくびれた肢体を光らせている。

ようやく信号がかわる。

歩くたびに胸の社員証が右左に揺れるのに苛つきながら足を進める。
ああ、会社の人が反対方向から涼しげな顔で歩いてくる。あの人、全然暑そうじゃないのは何でなんだろう。

顔が塩顔だからか?
それとも体温が実際に低いのかしら。

「お疲れさまです。暑いですねー」
その人は全然暑くなさそうに笑顔で言った。

対する私は、眩しい日差しに顔をしかめ、化粧は崩れかけ、「THE暑いです」という表情をしているに違いない。

「ですねえ、○✕□☆」
と、声にならない声を返しながら私はずんずんと駐車場へと向かう。
もう目的地しか私の目には入らない。

あと30歩…20歩。

よし、やっと建物内!あとは隅っこのエレベーターに乗って三階だ!

ほっとしてエレベーターへ近づくと、若い女性がひとり今まさに乗り込むところだった。

ちらり、と目が合う。

距離はまだ若干離れていて、彼女が乗り込み終わるまでにはたどり着けそうにない。だが、彼女は私の存在をちゃんと見たはずだ。
きっと開ボタンを押して待っててくれるだろうと期待した。

私はせめて彼女を待たせないように、と残る気力を振り絞って小走りした。
「すみませーん…」ありがとうございました、と口を開きかけた時。

無情にもエレベーターの扉がピシッ、と閉じてゆるやかに彼女ひとりを乗せた箱が私の視界から消えた。

「…え…」

私はポカーン、と点滅しながら登っていく数字を見送り、しばらく放心していた。
だがそのうち、吹き出す汗と同時にムクムクと心が荒ぶり始めた。

扉の閉まるタイミングから考えて、明らかに彼女は手動で「閉」ボタンを押したのだ。

目、合った、よね?

エレベーターに知らない人と乗るのは、あまり心地よいものではないことは私にもわかる。
だが、こちらに小走りで走ってくる存在を確認しながらも、扉を早めに閉めるのは失礼じゃなかろうか。

走ったおかげでコーラもかなりシェイクされてしまったようで、しばらく置かないと噴射してしまいそうだ。

それからやっとエレベーターに乗り込み、冷房をMAXまであげる。
ジャケットとストッキングをぶあっ、と脱ぎ捨て車の冷房に身を委ねる。

やっとひと息、である。

だが、コーラはもう生ぬるくなっていて、ぜんぜん気分は「I feel coke」じゃなかった。

なんだかどっと疲れて、私は家路についた。
ほんともう、も少し優しくなろうよ。

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