進化の瞬間を目の当たりにした話
先日、すまいるスパイスの収録があった。
配信はもうすこし先になるのだけれど、そのときの感覚を忘れないうちに書いておきたい。
ほんとは配信からそれぞれのリスナーさんが受け取ってもらう感覚がすべて、と思っている。
あまり、私の主観で先触れするようなことはしたくはないのだけれど、
それを押してでも、書きたくなった。
たぶん、感動したからだ。
先日発表のあった、ピリカ文庫「母の日」の朗読。
いつものように、男性目線はこーたさん、女性目線は私と担当をわけるのだが、
今回こーたさんが担当するのはマー君さんの「カーネーション」。
息子に先立たれ、自ら死に向かっていこうとする母親に、意識のはざまで息子が語りかける、深い深いお話。
収録前に2、3分軽く打ち合わせをするのだが、そのときに、すでにこーたさんはすごく悩んでいらっしゃった。
どういう風に読んでいいのか・・・
すまスパという「ライトで楽しい番組」の朗読であまりテンションを下げてもいけないし、
かといって物語の本質は、しっかりお伝えしたい。
せっかく声で魂をのせるのだから、中途半端にしたくはない。
そういう逡巡がみてとれた。
「後半がハートウォーミングなお話だから、バランスはとれます。気にせずに、本気だしてください!」
私はこれだけ言って、収録をはじめた。
後半のささみさんのお話は、生命力に溢れている「母」へのお話。
大丈夫。真逆だからこそ、面白い。
そう思った。
タイトルコールからの、アイスブレイク。
このときもこーたさんの声はちょっと沈んで聴こえた。
そう、こーたさんは番組内で何度もおっしゃっているが、かなり「作品に入り込む」方なのである。
気分をパチンと切り替えられる器用さはなくとも、その「受け取る力」の感受性はすばらしいと思う。
「では、朗読お願いします」
いつものように進行し、こーたさんの声を待つ。
「ではいきます。ピリカ文庫より・・・」
朗読がはじまった。
「お母さん・・・。」
こーたさんの声が、作品の息子の叫びと完全にシンクロした。
私は思わず目を閉じた。
作品は何度も読んでいたのにもかかわらず、スマホからのこーたさんの声で私は震えた。
静かな闇。
夜の海のような、冷たい揺れが感じられた。
繊細な感情をナイーブに表現するのは、もともとこーたさんの得意とするところだが、
とにかく登場人物の哀しみ、恨み、諦め、それでも強く残る愛情、とまるで憑依したかのように見事に演じきられていた。
もしかしたら、聴く状況や心持ちで受け取りかたは変わるかもしれないから、これ以上は書かないが、
私は日中の熱がこもった自宅の部屋で収録していたにもかかわらず、
鳥肌がたっていた。
すごい。
これは本物だ。
朗読ってこんな力があるんだ!
今更ながらにそう思ったし
とにかくこーたさんの力量に圧倒された。
彼はストイックだから、なんどもなんども読みこんでくれたのだろう。
もしかしたら、何か自分の中にある
思い出の種みたいなものに触れて、すこし苦しかったかもしれない。私もそういう「種」の経験はなんどもしている。
今回間違いなく、
こーたさんはひとつステージを上がられたと思うし、
なにせその瞬間に自分が居合わせたことが嬉しい。
それを伝えたくて、こんなに長い文章になってしまった。
ぜひ、配信を聴いてみてほしいと思う。