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天使のお仕事~合コン編・最終回

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コンコン。

コンコンコン。

ここは天使部のボスのオフィス。響いているのはボスの指の音だ。

「やることが派手だぞ、アイリス。毎回毎回、何度私を驚かせれば気が済むのだ」

目の前には難しい顔をしたボスと、書類の山が積んである。始末書かしら、とちょっとしゅんとしてしまう。

「まったく、姉のリリーくんの頼みだったから休暇も延長して静養させようとしたのに、これだ」

ボスがばん、とデスクに叩きつけたのは、「天界セブン」。いわゆるゴシップ雑誌だ。見開き4ページで特集を組まれている。

<悪魔長と現役天使の禁断の愛!?>

<180年ぶりか?悪魔ルシファーの新恋人出現!>

・・・まあ、そう書かれちゃうわね。

<激白!!美魔女Aさんが語る!あの夜、私だけのルシファー>

・・・ん?・・・ちょ、ちょっと待っ・・・

「まあ、恋愛は自由だが、よりにもよって相手にルシファーを選ぶなんてな」

ボスが私の手から雑誌を取り上げ、ため息をつく。ちらりと覗いたボスは笑いを堪えているようにも見えた。

「そして極めつけはこの記事だ」

<悪魔長ルシファーの、積年の傷口を完治させた天使の献身的な愛情>

「これは真実なのか?」

ボスが記事を指差した。
私は頷く。

「ふむ、そうか・・・」

ボスの声は、私を叱責するものではなかった。

「ありがとうアイリス。私からも礼を言おう。ルシファーから聞いたかもしれんが、私たちは旧知でな」

ボスは笑う。

「はい・・・伺いました」

「あいつが天使の名を捨てたとき、私はなにもしてやれなかった。いくら無罪を訴えたところで、神々は意見を変えなかった。・・・あいつは強くて、そして、正しすぎたんだ。私よりもずっと天使らしい男だったよ。・・お前はあの傷口を見たか?」

「はい。見ました」

ボスはゆっくりと頷く。

「あの傷を忘れてはならない。光も闇も、お互いがなければ存在しないのだ。人の子は弱い。幸運を授ければ慢心し、実りを与えれば奪い合う。それを監視し試練を与えるのが魔族の仕事。・・・どちらが上でも下でもないのだ。私たちの仕事だけが尊いのではない」

はい、と私は頷く。

今ではわかります。その意味が。

「ボス、今までお世話になりました」

私はゆっくりと頭を下げる。たくさん、たくさん恩をうけたくせに、
なにもボスには返せなかった。それだけが心残りだ。

「逃げるな、アイリス」

ボスの厳しい声に顔を上げる。



「お前には悪魔部から感謝状がきておる」

「は?」

「ルシファーの傷について、長年悪魔部のメンバーも胸を痛めていたらしいな。
そして・・まあ、アイリスの存在のおかげでルシファーが元気になったので、職場に笑いが絶えないとさ。
生産性もアップしたらしい。和気あいあいの悪魔部というのも、私はどうかとは思うがね」

ボスが手元の書類を私に渡す。

「天使アイリスを辞めさせるな、との署名がこれだけ来とる。悪魔部だけじゃない。ゼウスさまヘラさまに、アポロンさまとアルテミスさま。白狐と青龍。小人族長老のコーチョレホトットからも来ている」

・・・こ、コーチョレ?とっと?

「とにかくだ」

ボスが私の肩をぽん、と叩いた。

「お前を辞めさせるわけにはいかん、ということだよ、アイリス。だから、逃げるな」



「もう!センパイは一体いつ帰ってくるんですかぁ~!私、今日ネイルの予約してるんです~!!」

アンジェリカのご立腹な声が響いている。

「インキュバスくんが暇なフリしろっていうから必死に書類もファイルも隠してたんですよ~!もう限界です~!!」

ばん、となにかを放った音がする。

「だってホラ、あのときはアイリスさんをゆっくり休ませてあげたくて・・」

インキュバスのあたふたした声。

「そんなことしたって、センパイが仕事やめる、なんてあり得ませんよ~!だってセンパイは私のキャリアを追いかけるのが趣味なんだから!」

「しーっ、聞こえますよアンジェリカさん!」

「聞こえてたら本望です~っ!!あー、もう私帰りた~い!!」


「残念ながら聞こえてるわ」

私がオフィスに顔を出すと、しん、と声が止まり、アンジェリカとインキュバスが書類を抱えたままパチクリと顔を見合わした。

そして、見事なユニゾンで叫ぶ。

「ぼさっとしてないで、はやく手伝ってくださいっ!!」


ハイハイ、と私はデスクに向かう。
ぜんぜん変わってないわね。

私の机、そして仲間。

愛すべき、私の仕事。


メールの音がする。

「ヒマラヤ杉の丘で待ってるよ。仕事をすぐにでも終わらせて、早く君に会いたいな😇」

彼からのメッセージに口もとがゆるむ。

あ、でもさっきの「私だけのルシファー」の記事のこと問い詰めてやんなきゃ。
こういうのは、最初がかんじんなのよ、ってリリーお姉ちゃんも言ってた。

「あ~、センパイずるい!いまデートの約束してたでしょ!仕事が片付くまでは行かせませんからね~」

「え、え、ルシファーさんてこんな絵文字使うの!?なんかちょっと・・・ダッサ・・幻滅」

ふたりが私の背後で騒ぎ立てる。

あーもううるさい!

私は白衣を腕まくりして、いちばん手近な書類の山を手に取る。

「なにこれ、何ヵ月前の書類なのよー!こら!インキュバス!」

「はいぃ~、失礼しました!」

「元々はセンパイの仕事じゃないですかあ~!!」

毎日ドタバタだけど、私はやっぱりここが落ち着く。

「ありがと、みんな。大好き」

聞こえないほどの小さな声で、私は呟いた。


 <完>
こびと部へ捧ぐ

✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨

長らく天使のお仕事シリーズを読んでいただき、ほんとうにありがとうございました。

私にとって唯一のシリーズもので、連載という貴重な経験をさせていただきました。

私がこの作品で書きたかったことは、完全な善悪はなく、正義というのはそれぞれの見方によって変わるのだろう、ということでした。

自分の仕事だけを見ていたら世界は広がりません。今回アイリスは自分が傷ついた経験から、ルシファーを救いました。

傷つくことは、なにかを失くすことではない。
他人の痛みに共感できる強さを手にいれることです。

アマチュア作家の小さな作品ではありますが、想いはたくさん込めております。

連作としては、一旦今回で筆を置こうと思います。

本当にありがとうございました。

ピリカグランプリの賞金に充てさせていただきます。 お気持ち、ありがとうございます!