【火曜更新】ピリカの荒ぶりエッセイ~⑥
ハングリーでアングリー!!レストランに荒ぶる火曜日
ピリカの荒ぶりエッセイ、早くも6回目を迎えた。火曜日は堂々と荒ぶることができる日なので、最近は楽しみだ。
ピリカよ、そんなにしょっちゅうプリプリして、私生活大丈夫!?と思われるかもしれない。荒ぶりスイッチはnoteと仲間うちでの居酒屋でしか押さないと決めている。心配ご無用である。
さて、今日は食事に行ったときの荒ぶりをお話しようと思う。
最近はすぐSNSで発信されるからか、以前よりは横柄な店主やスタッフはかなり少なくなったのではないかと思う。それは大変いいことだ。一昔前は「ん!?」と目を疑いたくなるような乱雑な盛付けの店も、決して多くはないものの、何軒か行ったことがある。
さて、そんな令和の世の中で、私は先日ランチに行ったレストランで、久々びっくりするようなことに出くわした。
そこは、いわゆる観光客向けのレストラン。若干高めで、めちゃくちゃ美味しいかというとそうでもない。
そのときはお腹がへってふらふらなのと、近くの店が混んでいたこともあり、同僚とふたりでそこへ入った。
朝食も食べそこね、午前中の雑事をいくつか片付けて、やっとこさレストランのテーブルについた私は、席にセットしてあるメニューに血走った眼差しで目を走らせる。
とりあえず胃に収まればなんでもいい、一番早くできそうな「サービスランチA 」を注文しよう、と即決で決める。
同僚はサービスランチのなかに苦手なエビフライがあるということで、ちょっと割高のハンバーグランチをオーダーすることにした。
「いらっしゃいませ」
オーダーを取りに来た若い女性スタッフ(20代半ばくらい)が、水とおしぼりを置いて、「お決まりになりましたら…」と言いおわるのを待たず若干食いぎみに、「サービスランチAとハンバーグランチ」と注文する私。
思えば、その言い方がスタッフの気に入らなかったのであろう、と見当はつくのだけど、そのときの彼女の顔。
みるみる顎が上がり眉間にシワがより、気分を害したのがありありと読み取れた。
「アタシの言葉を遮るなんて、なんなのこのおばさん!」
と思ったのであろうが、その時私は、腹が減りすぎて気にする余裕もなかった。
「なんか、感じわるいですねあの娘」
同僚が私にささやく。
「まあねえ」
そう返しながら、でも私の言い方もちょっと確かに嫌なかんじだったよな。お金払うときに彼女がレジにいたら一言、ご馳走さまでした、くらい言って帰ろう、と思っていた。
それから待つこと10分、まず同僚のハンバーグランチが到着。
サービスランチの方が早かろう、と目論んでいた私の予想は見事に外れる。
「ほら、熱いうちに食べなよ、私のも、もうすぐくるよ」
私に遠慮して箸をつけない同僚は、すみませんと言ってゆっくり食べ出す。
私と食べ終わりを揃えようとしてくれているのだろう。
それから周りを見渡す。私以外はみんな黙々とランチにありついている。私と同僚のあとに入ってきた男性ふたりの客も、もぐもぐ口を動かしている。
そっと皿の中身を見ると、コロッケとエビフライ。サービスランチAである。
こりゃ、オーダーミスかもしれない。
「ピリカさんの、遅いですよね」
同僚は私に遠慮して、ハンバーグを箸で小さく小さくして食べている。彼女に申し訳なくて、私はスタッフに見えるように手をさっと上げる。
彼女に届かず。
スタッフの女性は、私の方を見ることもなくくるくるとレストラン内をスピーディーに動き回っている。仕事ができないわけでもないらしい。
ホールは彼女一人が任されているようだし、新人ぽくもない。
なんなら厨房にオーダーを伝える声もなかなかのぶっきらぼう。もしかして、家族かもしれない。
これは、こちらも遠慮はいるまい。
「あの、すみません」
次は声つきだ。
いくらなんでも届くだろう。だって私の声はよく通るのだ。
高卒で就職したとき、研修で行った陸上自衛隊で(昔、うちの県内企業はなぜか新人教育に自衛隊体験を組み込んでいた)「キミ、来年うちを受けてみなさい」と教官から言われたほどの声帯をもっているのだ、私は。
彼女が拭いているテーブルの隣のおじさんが、ちらっと私と彼女を交互に見た。
だよね。
聞こえてなくはないだろうよ。
しかし彼女は、こちらをまったく見ない。「いらっしゃいませー」なんて玄関に向かって笑顔を振りまいている。
ここまできたら、わざととしか思えない。
「私、聞いてみましょうか」
ほとんど食べおわった同僚もすみません、と手をあげる。
ガン無視。これはもう間違いなかろう。
カチリ。
私のなかで何かが外れる音がする
なにせ私は腹が減っていて、攻撃性が増しているのだ。それをさせたのは彼女である。
ー後悔すんなよ。
息を吸う。
「すみませええーーん、もう30分たってるんですけどーー、サービスランチはーーまだですかあーー!!昼休み終わっちゃうんですけどおー!!!」
私は本気で声をあげる。
毎週毎週、「すまいるスパイス~!!」とラジオで声を張ってる私をなめんなよ。
店内のみなさんが動きを止め、バッと私を見る。恥ずかしいより、怒りが先にたっているから不思議と何も感じない。
「だよな、あの人のほうが先だったもんな」
隣の若者グループが、小さい声で加勢してくれる。
「ど、どうかしましたか!?」
シェフらしい、初老の男性が厨房から飛び出してくる。
「彼女の料理が来ないんですよ、さっきからずっと呼んでるのに」
同僚がシェフに言うと、すみません、すみませんとシェフがペコペコ頭を下げる。
スタッフの女性は、そっぽを見てブスッとふくれている。
「いまからすぐ作りますから。お代は要りませんから」
というシェフにも、私の荒ぶりは癒されなかった。この雰囲気の中食べたくもないし、これ以上、食べおわっている同僚を付き合わせるわけにはいかない。
「もう結構です」
と言って席を立つ私に、あわてて同僚もついてくる。
「すみません、すみません」
ずっとシェフが謝っているのに、彼女は目もこちらに合わせない。
「ピリカさん、よかったんですか?食べなくて」
店を出たところで、同僚が心配そうに言う。代金はいらない、とシェフに言われたそうだ。
「いい、もう食欲もなくなったから」
と言う私だが、そのそばからお腹がぐう、と音を立てた。ツイッターで呟いてやろうかとも思ったが、そういう攻撃は品がないと思い返して、やめた。
でも器の小さい私は、あの中の客のだれかが拡散してくれりゃいいのに、と少しだけ思っているのだ。
ピリカグランプリの賞金に充てさせていただきます。 お気持ち、ありがとうございます!