【ピリカグランプリ・後夜祭】悪魔に救われた夜
「落ちたらどうしよう、って思うときが一番怖いのさ」
夢のなかで、悪魔が言った。
現実ではない、とわかってるのにやたらリアルだ。
嫌われたらどうしよう?
一嫌われてみればいい。
この仕事続くかわからない。
一もうだめだ、って時に考えればいい。
「何でも、どうしよう?って思ってるうちが怖いんだ。一旦どん底までいったら、あとは這い上がるだけだろ。
這い上がるときは怖くないんだよな。必死だからさ」
女は、不思議とこの悪魔の言うことは信用できる気がした。
顔を上げてみる。
たくさんの薬が散らばった部屋に女はいた。
「私・・もうすこし生きてみたい」
悪魔が少し笑って、ばさばさと羽を拡げる。
孔雀の羽のようにも、暗い光を放つ宝石のようにも見えるそれは、
一瞬だけ紫に光り、闇に消えた。
「あのー、あなたの仕事わかってますぅ?」
天使部受胎係主任のアンジェリカさんが、俺の前にボスの事情書を持ってきた。
「あなたは悪魔部の人でしょー。リストにある人を生かし続けてどーすんですかぁ」
「すみません・・」
俺はアンジェリカさんに呆れられながら、しゅんと羽をしぼめた。確かにそうだ。
「あなたがやたら人の子を救うから、私たち受胎係がいつも出生数を調整しないといけないんですよー?シフト減るんです!」
「はい・・すみません」
悪魔部に来て一年。俺は五人の自殺志願者を救ってしまった。天界のリストは絶対なのに。
でも。悩んでいる人の子を救いたくなるのは性分だ。どうもそのまま冥界に送る気になれないんだよな。
アンジェリカさんは、ふと声をゆるめた。
「ボスからの事情書。はいここに拇印押してくださーい」
俺はおとなしく左手を差し出す。黒いインクが毒々しい。もう減給も三度めだ。
「あと、これ」
アンジェリカさんが封筒を差し出す。
「あなた、来月から天使部に異動ですって」「はあ・・?」
俺は呆然と、「天使部に異動を命ずる」と書かれた紙を見つめるしかなかった。
「ボス曰く、一度地獄を見たものは強いんだ、だって。よくわかんないけど、クビがつながりましたねぇ」
そして書類とともにアンジェリカさんが置いていったのは、
天界ショップサトリから取り寄せた、翼用のカラースプレーだった。
「・・簡単すぎじゃね?」
俺の声が、虚しく響いた。
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ピリカグランプリにご参加いただいたみなさま、ほんとうにありがとうございました。
わたくし、スマホユーザーでございまして、今まで字数を気にせずにのんべんだらりと書いておりましたが
こりゃあむずかしいね!
ほんと、文章って奥深い。
わたしはあまりシリアスで救いのないお話は書けない。どちらかというと、予定調和である。
水戸黄門みたいに、放送後47分くらいで解決する話がすきだ。
ピリカグランプリ、ピリカ文庫と創作のイベントをやってみて、いろんな才能があるのを知った。
キレキレの無駄のない文体とシャープな展開、「こうきたかー!」というラスト。
そういった持ち味の方には憧れる。
でも、それでも。
私が書くものについては、
努力は報われ、優しさは伝染し、悲しみは癒させたいのだ。
現実はそんなこたあない。
努力は気づかれない。優しさは弱みに転ずる。悲しみは増幅する。
暗いニュースばかりをマスコミは選んで伝えてくる。
そんな時代だからこそ、私はポジティブを発信したい。
そう思い、書かせていただきました。
このお話は私の「天使のお仕事」のスピンオフになります。
ピリカグランプリの賞金に充てさせていただきます。 お気持ち、ありがとうございます!