![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/62349656/rectangle_large_type_2_2dca3a47f348f06ddf72abc465aab6b6.jpeg?width=1200)
【見つけたよって言ってみよう】【短編小説】秋の紅茶
どうやら、季節は秋らしい。
この搬入口からの扉を開けると、むっとした空気が攻撃してきて、私を辟易とさせるのだが、それがこの二、三日、ずいぶんと和らいできたような気がする。
私の仕事は、倉庫の整理だ。女性っぽくない仕事といえばそうだろう。体力も使うし、化粧などちゃんとしても誰も褒めてくれない。
毎日毎日、大型トラックから搬入される商品を検品し、決められたところへ格納する仕事だ。
私は、この黙々とやれる仕事が気に入っている。同じパートでも、もっと体力的に楽な仕事もあるだろうにと主人は言ったが、私はこっちが楽なのだ。
ひとつ前の事務の仕事では、社員とパート、派遣社員が入り乱れ、かなりピリピリしていた。年下の社員の顔色を伺い、
ランチのときの話題のため、興味もない恋愛ドラマを見ていた生活。
それに比べたらだいぶ楽だ。
仕事は、そもそも友達をつくるためにしているわけではないのだから。
この倉庫に来てから2ヶ月、私は特に誰ともコミュニケーションをとらなかった。
変わった人、と思われても構わない。もうあんな疲れる思いはしたくない。
昼休み、私はいつものように自分の車のなかでおにぎりを頬張っていた。ほかのパートさんたちは、中の事務所でお弁当を広げている。
「うちの長男がねー!」
だとか
「いやーん、翔くんロスー!」など、
楽しそうな笑い声が気になりつつも、私はスマホでSNSをチェックする。孤独感はあるが、もうだいぶ慣れてきた。
コンコン、と車のガラスを叩く音がして、私はびっくりして窓を開ける。
レジ係の山下さんだ。私より少し年上の、ベテランさん。
何の用だろう。
「大田さん、よかったらこれ」
山下さんが、新商品の紅茶のペットボトルを差し出した。
【新ブレンド 秋の紅茶 】と書いてある。たしか今日から売り出しのはずだ。
「え・・・」
私が固まってると、山下さんはふふっ、と笑った。
「大田さんいつも車で休憩でしょ?いままではみんな事務所で食べてたから、なんとなくそれがルールみたいになってたけど、私、実はあの事務所で食べるの苦手なのよね。あの【私たち仲良しよ!】っていうアピールが嫌でね」
はあ、と私がうなずくと山下さんも同じ紅茶を持っていた。
「これすごく売れてるの、美味しいみたいよ。私も大田さんの真似して、今日から車で食べます、って宣言してきちゃった。勇気がいったけど、まあ楽になったわ」
山下さんはそう言うと、私の三台となりの軽自動車へと向かった。
「私たちは、このスタイルでいきましょ」
はい、と言ったつもりだったがうまく言葉にならなかった。
秋ブレンドの紅茶をありがたくごくごくと飲み干し、私は車内で秋の風を感じた。
そしてすこし、
うれしくて笑った。
この企画に参加しています!↓
いいなと思ったら応援しよう!
![ピリカ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/82913731/profile_6aa5af94e7a2c216a86ff3a4415bd7e2.jpg?width=600&crop=1:1,smart)