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【Nakamura keiさん×ピリカ】僕は「E.T」を観ていないside-B

Nakamura keiさんの小説、【僕は「E.T」を観ていない】の彼女目線のお話を書かせていただきました!↓こちらからお読みください!


「何か起こりそうで、何か怒りそうなんだよね」

彼は隠しごとがとても下手くそだ。しかも、自分ではまったくそれに気づいていないのがめんどくさい。

仕事で何かあったの?とさりげなく聞いたらこの台詞が返ってきた。

しかも、僕はぜんぜん気にしてないですよ、現実を飄々と粛々と受け流してますよ、だからラップで韻なんか踏むんじゃうんだよ、それくらいの悩みなんだよ結局、みたいな口調でいうもんだから、余計に心にぎゅっとくる。

私は黙って、洗い物をする。好物のコロッケも半分残しちゃって。取り繕ってもわかるんだから。

こんなときにどんな話をすればいいのだろう。

「悩みがあるなら話してよ。何年一緒にいるとおもってんの?」

・・だめだ。脅してどうすんの。こういうときには、だいたい「うーん、二年と三ヶ月じゃないかな?」なんて真面目に数えるのよこの人。

「今週末、こないだ雑誌で出てたカフェに行ってみない?」

これもイマイチ。最近は土日でも仕事の電話があってるし、そんな中で彼は無理して私に時間を作ろうとするだろう。完璧に僕はリラックスしてますよ、みたいな顔をして。でもジーンズについつい、革靴を合わせて履いてきたりして。
もしかしたら、また韻を踏みだすかもしれない。

彼のタスクをひとつ増やすだけのことだ。


私はそっと振り返り、TVの前にいる彼を観察する。

・・ちょっと痩せたな。

目の下の隈が濃くなってるし、最近あまり眠れてないのも知っていた。彼は自分で処理できることなら、悩まないタイプだと私は思う。悩む時間があれば動く。自分に非があれば飛んで謝罪に行く人だ。

その彼がここ二週間くらい、ふさいでいるのは、複雑な事情と人間関係があるのかもしれない。私にはわからない、彼の世界はきっとつらいことも多いんだろうな。

彼のシャツを洗濯機へ入れる。煙草の匂いがする。

煙草、やめたはずなのに。
そのシャツはいつもより湿っていて、主そのままにくたくたになっていた。


まったく違う話のほうがいいかと「E・T」の話をする。なんとなく、現実から遠ざけてやりたい衝動にかられたからだ。

過酷な現実に打ち克つには、ファンタジーしかないじゃない。
うん、ぜったいそれ。

唐突に、ド天然なかんじで話だす私。頭ではぐるぐる考えるくせに、アウトプットが脈略もないのは私の困ったところだけれど。

呆気にとられたように聞いていた彼は、意外とその話に食いついてきた。

よしよし。会話成立。

こんなふうに、斜め上からのアプローチが有効・・と。私は頭のなかでメモをとる。彼の目がちょっと優しくなっていることに気づく。

ひとしきり話したあと、なんとなく、そんな雰囲気になり彼が抱き締めてくる。

ぎゅっと、なにか心に決めたような感じ。優しいエネルギーでは全然なくて、明日戦場にいく兵士のような抱擁だった。


そうか、キミは戦ってるんだね。

明日も、戦いに行くんだね。


私は彼の胸に頬を埋めて、背中に回す腕にそっと力を込める。

イーティーさんのご加護がありますように。

そして、次に彼が抱いてくれるときには、煙草の匂いがしないといいな、と祈った。

                           

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