ニンジャスレイヤー二次創作SS「リトル・レジスタンス・オブ・ツー・ガールズ(前編)」
これはニンジャスレイヤーの二次創作小説です。オリジナルキャラが主人公です。本編のニンジャや他の人たちも後々出ます(多分)。時系列的には第3部序盤のネオサイタマのイメージです。
重金属酸性雨が降り続けるネオサイタマの夜は、今日もネオン看板の光に包まれる。「実際安い」「人気店」「地区一番の美味しさ」といった文言がネオサイタマを明るく照らし、上空ではマグロツェッペリンが欺瞞的なCMを流し続ける。そのような光や音が届かない路地裏の一角では、ハイスクールの制服を着た少女が男に暴力を振るわれている。
その少女の横には同じ制服を来た別の少女が1人、壁にもたれたまま気を失っている。頬には殴られた跡があり、頭からは血が流れている。「ミコト…!」殴られ続けている少女、ノゾミは気を失っているミコトを見る。ミコトはノゾミを庇う形で男に殴られ、そのまま壁に頭から激突した。眼鏡が壊れ、彼女の視界はぼやけているが、ミコトがすぐにでも病院に連れて行かないとならない危険な状態なのは明白だ。
「どうして、私たちがこんな目に…」ノゾミは呟く。目の前の男とは何も因縁はない。ないはずだ。「アン?そりゃお前、俺がストレス解消出来るからに決まってンだろ?」男は左目のサイバネアイを光らせ、当然のように言う。このヨタモノは借金取りで、借金の取り立てに失敗し、その腹いせに偶然側を通りかかったノゾミとミコトを殴りつけているのだ。彼女たちと一切関係がない!
男がノゾミの服を引き裂こうと彼女の制服に手をかける。「アイエエエ!」ノゾミは恐怖心から泣き叫ぶ。男は愉悦に浸る。だが手に力をいれようとしたその時、男の手首を何者かの手が掴んだ。「ア?」男はその手の本人を見るために顔を向けようとした。「イヤーッ!」「グワーッ!」男の手首を掴んでいた手に突然力が入り、男の手首の骨が折れた。骨を砕く感触を感じながら、彼女は手を離した。
「テメエ…」「イヤーッ!」「アバーッ!」呻き声を上げる男の腹に彼女の手が突き刺さる。襲撃者が手を引き抜くと男の血がポタポタと零れ、彼女の細い手や服を汚す。そうしてついに、男は自分を攻撃する者を直視した。暴力をふるっていた少女と同じ制服。少し前に自分が殴りつけて重症を負わせた少女であった。少女は今もまだ頭から血を流しているが、怒りに満ちた目で男を睨む。男は形容し難い恐怖に飲み込まれた。
「イヤーッ!」「グワーッ!」ミコトは右手で男を殴る。男は吹き飛び、しばらく痙攣した後、動かなくなった。ミコトはノゾミを見る。ノゾミは殴られはしたが自分ほど重症ではない。だが、ノゾミの目は恐怖の色に染まっていた。「ノゾミ、もう大丈夫だよ。帰ろう」ミコトは血に塗れている手を差し伸べる。ノゾミは震えたままだ。
「アイエエエ…」「ん?ああ、血がついちゃってるよね」「ニンジャ…ナンデ…」「ニンジャ?」その言葉を聞いて、ミコトはようやく自分の身に降りかかった出来事を自覚した。ああ、アタシはニンジャになったんだ。
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トコシマ区の外れにある格安アパートの3階、Tシャツ姿のラフな格好のミコトとジャージ姿のノゾミは遅めの昼食を食べている。「今日のノゾミの料理も美味しいね」「アリガト。今日は簡単なものだけど」普段通りのやりとりだ。だが、ノゾミの頬には昨日殴られた痣が残っており、腕や足にも擦り傷がある。重症ではないが、見ていて痛々しい。「ケガ、痛くない?」「うん、平気。私、こう見えて頑丈だから」ノゾミは微笑みながら言い、ミコトはそれを聞いて安心した。今日は学校が休日だったのが幸いであった。
「ミコトのケガはすぐ治ったよね。私よりも重症だったのに」「そうだよね。なんでだろ?」「ニンジャだから?」「そうなのかな」ミコトは自分の黒色の短髪を掻き回す。頭の出血は治まっており、擦り傷や殴られた痕も無くなっている。ニンジャ回復力の為であった。
「ミコト、ニンジャになっても全然変わらないね」「そう?」「うん」ノゾミはチャを飲み干す。「ニンジャなんて居ないと思ってた。だけど、現実にはいたんだね」「アタシは実際にニンジャになるなんて思ってもみなかったよ」ミコトは冗談めいて笑った。
「本当は最初、ミコトのことが怖くなった」「・・・うん」ミコトはあの晩、ノゾミが自分に向けた恐怖の表情を思い出す。NRS(ニンジャリアリティショック)を発症したノゾミの顔を。「でも、もう大丈夫。ミコトはミコトだった」「なにそれ」ミコトは苦笑する。
「ニンジャになって、私を置き去りにしてしまうのかと」「それはないよ」ミコトは即答した。「アタシは絶対にノゾミを見捨てたりなんかしない」「・・・うん、そうだったね」2人は固い絆で結ばれていた。
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ノゾミとミコトの2人は家族同士で仲の良い幼馴染であった。10年前、ネオサイタマ郊外にある事故率5%以下で人気の自然公園へ遊びに出掛けた際、野生のバイオパンダに突如襲われた。その時、彼女達の両親は2人を守り、その怪我が原因で帰らぬ人となった。不幸な事故であった。少なくとも当時はそう思うしかなかった。
ノゾミとミコトは、ノゾミの叔母の元で生活することとなった。叔母はヨロシサン系列の小さなカイシャの清掃員であり、給料は少なく、子供もおらず夫にも先立たれていたが、幸いにも2人の親や叔母の夫が残した多くの貯金のおかげで、慎ましくも幸福な生活を送ることが出来た。そのような時間の中で、彼女たちは心の傷を癒していくことができた。
そして2人は高校生になり、活発なミコトはスポーツを始め、知的で奥ゆかしいノゾミは文学や歴史に興味を持つようになった。2人は力を合わせ両親の分まで強く生きようと誓い、育ててくれた叔母にも恩返しをしようと決めた。
だが1ヶ月前、その叔母が交通事故で他界した。直接的な原因は叔母の信号無視と断定された。叔母の慎重な性格を知っているノゾミとミコトは激しく抗議をしたが、加害者側から多額の金を無理やり渡され、自分たちの知らぬ所でこの事故は和解されたことになった。加害者からの謝罪はなく、そもそも加害者が誰であるのかすら教えてもらえなかった。当然、彼女達は納得せず、特にノゾミの怒りは激しかった。
彼女達はこの理不尽に対して強く憤りを感じ、せめて犯人を特定して問い詰めなければ気が済まなかった。渡された金はまだ使っていない。この事件の追及のために使い、犯人にインガオホーを与えるためだ。
「具体的にどうやって動くの?」ミコトはノゾミに尋ねる。頭脳担当はノゾミの方だ。「ウーン、まだ何も決まってない」ノゾミは腕を組みしばし考え込んだ。「正直、私たちだけじゃどうすれば良いか分からないよ」裏社会を知らない善良な女子高生である彼女達にとっては、まさに八方塞がりの状況であった。
「誰かに頼る?」ミコトは提案する。「誰かって、誰に?」「探偵とか?」「探偵?・・・ミコト、カートゥーンの読みすぎなんじゃないの?現実にはそんな人いないよ」「そうかな?ニンジャだっているんだし、サムライ探偵サイゴみたいな探偵もいるんじゃないの?」「そう言われても・・・あっ、」ノゾミは何かを思い出したかのように呟いた。「どうしたの?」「・・・ううん、何でもない」ノゾミは数日前にIRC上で密かに噂されていた暗黒非合法探偵のことを思い出したが、明らかに不穏であったため、脳内から除外した。
「もう少し考えてみるよ」ノゾミは話を切り替えようとした。「IRCで情報を集めて、犯人に繋がるヒントがないか探ってみる」「おお、探偵っぽい」「ジャーナリストの方がいいかな」「どっちでもいいよ。うん、似合ってる」ミコトは立ち上がり、ノゾミの頭を撫でる。
「ちょっと、やめてよ」「いいじゃん、減るもんじゃないし。・・・やっぱりキレイだよね、ノゾミの髪」ミコトはノゾミの整った黒色の長髪に触れる。「アタシも髪を伸ばそうかな?」「ミコトはそのままが似合うよ」「そっか。じゃあそのままでいいや」ミコトはノゾミの髪から手を離し、耐重金属酸性雨コートを着る。
「ちょっと出掛けてくるね」「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」「大丈夫だよ。ニンジャだし」ミコトは手を振って玄関のドアを開け、外出した。
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数分後、ミコトはトコシマ区のアパートやビルの屋上を飛ぶように駆け抜けた。ニンジャになった今なら建物と建物を飛び渡ることなど容易かった。周辺を空中で一周したのち、「圧倒的な曲数と音質」という文字を映し出すネオン看板が吊るされたカラオケ店の屋上で立ち止まった。
「安い!安い!実際安い!」遠くに見えるマグロツェッペリンから発せられる音声がここまで聞こえ、ミコトは顔をしかめた。視力も聴覚もニンジャになる前に比べて格段に向上していた。そして彼女はビルの下を覗き、周辺に誰もいないことを確認して、「イヤーッ!」一気に飛び降りた。
キレイに着地し、その地面は軽くひび割れたが、彼女にダメージはない。「ニンジャってこんなことも出来るんだ」ミコトはニンジャとしてどれだけ動けるのかという把握に努めている。そして全能感に浸った。その時、「ザッケンナコラー!」遠くでヤクザスラング!コワイ!
ミコトはその声の方向へと歩み寄る。そこではモヒカンヘアーの男がサラリマンを殴り続けていた。ミコトの脳内では昨日の出来事がフラッシュバックした。「アイエエエ・・・もう何も持ってないですよお・・・」サラリマンは失禁しながら答える。「ザッケンナコラー!どこかに隠してンだろコラー!」「アイエエエエ!」ナムサン!この男はカツアゲをしている!
ミコトは男の元へと歩みを進める。笑いながら。「・・・!」自分が笑っていることに気がついたミコトは歩みを止め、瞬時に物陰に隠れた。何故笑っていた?自分は何をしようとしたのか?「ハァーッ、ハァーッ・・・」ミコトは呼吸を荒げる。得体の知れない感情が彼女を動かしていた。
ニンジャになったことで己の欲望のまま動くニンジャは多い。ミコトも感情のタガが外れ、殺人鬼に堕ちようとしていた。だが、彼女は帰りを待っているノゾミのことを思い浮かべる。それがミコトの精神を落ち着かせた。ミコトにとってノゾミは誰よりも大切な存在であった。ここで自分があの男をニンジャの力で蹂躙すれば、ノゾミはきっと悲しむ。それは嫌だった。ノゾミはミコトの全てであった。
ミコトは深呼吸をして、周りを見渡す。そしてしゃがみこみ、木の枝を拾い上げる。「・・・ま、これくらいならいいでしょ」彼女はその枝を思い切り振り投げ、男の脇腹にぶつけた。ワザマエ!「グワーッ!」男は吹き飛び、しばらく悶えていた。「アイエエエ・・・」サラリマンはその隙に立ち上がり、ヨロヨロとその場を後にする。彼は枝が飛んできた方向を見たが、そこにはもう誰もいなかった。
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ネオサイタマ郊外の小さな事務所の地下にて、男の悲鳴が響き渡る。「アイエエエエエ!」椅子で縛られたサイバネアイのこの男は、昨晩ノゾミとミコトに暴行を加えていたチンピラであった。体のあちこちには切り傷が刻まれている。「フーム・・・女子高生を襲ったら返り討ちにあったと」彼の前に立っている男は獰猛なケモノの毛のような長い髪を持ち、ヤクザスーツを着用し、メンポを装着している。その男はニンジャであった。
「違うんスよ、ウルフクロー=サン・・・」ウルフクローと呼ばれたニンジャは応える。「何が違うんだ?」「その女子高生、実はニンジャだったんスよ。不幸な事故だったんスよ・・・」チンピラの男は助けを乞うように言い続ける。「確かにお前のサイバネアイの撮影映像から見ても、ニンジャであることは間違いないな」ウルフクローは肯定する。「ま、この嬢ちゃんたちには悪いが、少し痛い目を見てもらうとするか」
「さ、さすが頼りになります、ウルフクロー=サン!どうか俺の仇をアバーッ!?」男は言い終わる前に切り刻まれ、そのまま動かなくなった。「ああ、仇は討ってやるとも。ジゴクでじっくり見ておけ。・・・後の処理は任せた」血に塗れたこの場所をクローンヤクザに任せ、ウルフクローは退出した。「さて、このデスクロー・ヤクザクランにケンカを売ったことを後悔させてやらないとな・・・!」ウルフクローは邪悪な笑みを浮かべ、舌なめずりをした。
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「ご覧ください。可愛いラッコがタマ・リバーで偶然にも発見されました!ネオサイタマの環境が改善!」ノゾミは欺瞞的なテレビ放送を聴きながらIRCに興じていた。手元にはノートがあり、叔母の勤め先のことや親しかった人たちへの聞き込みなど、これまでに集めた情報をまとめている。ノゾミはそのノートを眺めて悩ましげに考えていると、玄関のドアが開く音を聞いた。
「ただいま」ミコトはコートを脱ぎ捨て、部屋の中に入った。「おかえり。・・・それは?」ノゾミはミコトの手にぶら下がっている袋に注目する。「ああ、これ?お土産」ミコトは袋から食べ物が入ったパックを取り出す。ノゾミは顔を近づけてそれを見る。「スシだ」「うん、なんか食べたくなって」
「へえ。いつもだったら買ってくるのはお菓子なのに」「今日は食べたい気分だったの」「ふうん」ミコトは冷蔵庫の中にスシの詰め合わせパックを二つ入れ、ドアを閉じた。「ねえノゾミ、やっぱり眼鏡がないと不便?」先ほど、パックに顔を近づけていたのが気になったのだ。
「うーん、今すぐ必要というわけじゃないけど、見にくくはなってるね」2人はノゾミの机の上にある壊れた眼鏡を見る。昨晩、男によって粉々に壊されたのだ。「明日も学校は休みだし、買いにいく?」「どうしようかな・・・」ノゾミは考える。「新しいのは前から欲しかったんだけど、それでも今は外に出るのがちょっと怖いかな・・・」ノゾミは昨晩の恐怖からまだ完全には立ち直っていなかった。
「大丈夫だよ。何があってもアタシが守ってあげるから」「エ?」ミコトは腰に手を当てて自信を持って言う。「さっき体を動かしてきたけど、ニンジャって凄いよ。高くジャンプ出来るし、速く走れるし、何でも出来る。だから、ノゾミのことだって怖いものから守ってあげられる。今も、これからも」ミコトは自身に満ち溢れていた。「そっか・・・それなら、大丈夫だよね。うん、明日一緒に付いてきてもらってもいい?」「もちろん!」ミコトは笑顔でガッツポーズをした。ノゾミはその笑顔を見て、叔母が亡くなってからあまり見せなくなった笑顔をミコトに見せた。
ミコトは例え相手がヨタモノだろうがチンピラだろうがヤクザであろうが、ノゾミに危害を加えるものを簡単に返り討ちにすることが出来ると確信していた。実際、ニンジャである彼女には造作もないことである。
だが翌日、彼女たちに降りかかる災難は、ニンジャであった。
【後半に続く】
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