Apple Musicで聴けるジャズ : 「Split Kick」 を聴き比べる

モダン・ジャズの愉しみ方のひとつに、同一曲の聴き比べがある。あなたがある一枚のアルバムを愛しているとしよう。その中でも特にお気に入りの一曲を、他のプレイヤーが演奏していると知ったらどうだろうか。あるいは、それほど好きでもなくしばしば飛ばすような曲でも、他のプレイヤーがまるで違うアレンジで演奏しているとすれば。

そういうときに音楽配信サーヴィスというのはまことにありがたいもので、Apple Musicでもずいぶん色々と聴き比べのしやすい環境が整っている。


Split Kick - High Five

https://itunes.apple.com/jp/album/split-kick/720587936

今回取り上げるのはこちらのタイトルナンバーで、ぶっちゃけるとスタンダードとしては全然メジャーなほうじゃないうえに極端なアレンジ違いが存在しないんだけど、採用した理由は「おれが何気なく尼レビュー見てたら発狂ジジイが『何これ全然たいしたことねぇ、Clifford Brown & Art Blakey Quintet版を聴け』とかほざいてたのでなんだコラ文句あんのかバカテメと一番最近意識して聴き比べたやつだから」です。

ちなみにこの曲はもうちょっとメジャーなスタンダード曲、「There Will Never Be Another You」のコード進行を採用して別のテーマメロディをつけたものになっている。ときどきこういうのがあるよ。

そのClifford Brown版はこちら。


A Night At Birdland, Vol. 1 & 2 - Clifford Brown & Art Blakey Quintet

https://itunes.apple.com/ca/album/a-night-at-birdland-vol-1-2/405267749

ちょっと探すだけでもバージョン違い音源が山ほど出てきてクソ面倒くさいなジャズってやつは。こんなもん聴いてるやつは頭がおかしいぞ。

さすがにこんくらい古い(1954年)と各メンバーの名前がとっくに伝説化していて全員ドメジャーで、Tp - Clifford Brown, As - Lou Donaldson, Pf - Horace Silver, Ba -Curly Russell, Ds - Art Blakeyという感じだけど、初心者向けのジャズ解説なので名前にビビる必要がなくていい。

さっきのHigh Five版と比べると違いはまず構成、TsでなくてAsが入ってるけどブレの範囲内ですね。サックス奏者は楽器の構造上互換性があったりなかったりして、一通りできる奴や一本勝負の奴、テナーとソプラノはできる奴(おまけにフルートがついてくることもある)、アルトとバリトンができる奴、コントラバスサックスができる金持ちなどいろいろいるけどどうせ一人で二本同時に吹くことはほぼない(超極稀にあるらしい)ので忘れていいです。

アレンジの骨子はほとんど同じなので、ソロを比べていくとまあ確かにサックスはLou Donaldsonの圧勝という感じがする。というかHigh FiveのTs - Daniele Scannapiecoってソロがいつもふわふわしてんだよな。具体性に欠けるというか、手癖で流してるような印象を受けてしまう。古いほうはライブ盤ということもあるかもしれんけど、とにかくSplit Kickのソロに関してはもうちょっと粘れよ、という感想になった。

Tpソロに関しては五分って感じで、Clifford Brownは熱演だが後半ネタ切れてたりでアラが目立つ、一方でHigh FiveのFabrizio Bossoは持ち味のやや割れた力強いトーンを十分に効かせつつクレバーに纏めた印象。ただClifford Brownのほうは最終1コーラスでArt Blakeyがごつい絡みを入れてきてこれが楽しく、ライブ盤の魅力ってたとえばこういう部分でもある。

ピアノソロはどっちも特筆することがないというか。Horace Silverという人は作曲家としては物凄い人で数々の名曲を持ち、このSplit Kickもこの人なんだけどプレイヤーとしてはあんまり目立たないんだよな。あとテーマのラテン部分でコードバッキング抜いた意図もよくわからん。High FiveのほうはLuca Mannutzaという人だけど他で名前聞くまで忘れてていいと思う、おれは覚えれてない。

Art Blakeyについてはソロが雑すぎやせんか。これ本当に要ったか?というとこれはライブのオープニングナンバーなので入れておいたのは正解だと思うがそれにしても雑。

というわけで最終的な結論ですが、好みじゃないですか。何せ60年の開きがあるので録音の違いはどうしようもないし、スタジオ盤とライブ盤という環境の違いもある。キチッと整理されててクールなほうを選ぶか、やや乱暴ながら息遣いや熱が感じられそうなほうを選ぶか。あとは気分とか。

以下、同曲の他の録音についてです。


West Coast Jazz - Stan Getz

https://itunes.apple.com/jp/album/west-coast-jazz/34756749

スタンゲッツお前ェ!お前そういうとこやぞ、お前、本当にお前。

というわけでクソマイペース男Stan GetzによるSplit Kickはご覧の有様というか、こいつがやるとその豊か過ぎるサブトーン(息が漏れたかのような掠れた音)によって何でも超クールぶられてしまう。でもこの演奏はかなり、いやひょっとして物凄くいいのでは?っていうかピアノがLou Levyじゃん、やったもうこれが優勝でいいや。結論:好きなの聴けばいいよ。


Little Tiny - 矢野沙織

https://itunes.apple.com/jp/album/little-tiny/268325501

日本の若いのだって頑張っている。矢野沙織は日本のCannonball Adderleyとまで言われててそれは完全に褒めすぎだけど、このソロも優等生すぎるんだけどそれほど悪いわけではない。でも上述のThere will never be~を引用したのはよくないと思うよ。そしてオルガン選びに失敗していて、ちょっと遊ばれすぎてしまって噛み合っていない。ギターのPeter Bernsteinもおれは大好きなんだが矢野とはやはり合ってないと思う。しかしその分というか、オルガンの巨匠Lonnie Smithとはかなり噛み合っており、フロントが抜けてバックでソロ回してるところは凄く良好。おい、巨匠とベテランが若手名義のリーダーアルバムで当の若手をハブるな!

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