Apple Musicで聴けるジャズ : Birdhouse - Will Lee

https://itunes.apple.com/jp/album/bird-house/254772396

全曲Charlie Parker作という大無茶

ジャズ界ではBirdという単語に特別な意味があり、ぶっちゃけるとCharlie Parkerのことを指すんだけど、これももともとの綽名がYardbirdだったとか(そっから例のヤードバーズに延焼したとか)、その名前にあやかったBirdlandというジャズクラブが腐るほどあるとか、それが曲名に採用されてるとか文脈が拡大しまくっていて面倒くさい。そのCharlie Parkerというのはじゃあどういう人かといえば、ビバップというジャンルを作った人と言ってよく、ひいてはモダン・ジャズを確立した人間の一人でもあり、John ColtraneMiles Davisの親分とか師匠筋にあたる、まあはっきり言ってしまえば今日のジャズはこの人抜きでは語れない、最大のジャズ・ジャイアントの一人。ついでにLAコンフィデンシャルでジャック・ヴィンセンズに殴られてごみ缶に叩き込まれた人でもある。

そしてこのアルバムはといえば、そのCharlie Parkerが作曲したもので一枚作っちゃおうという、いやそれ本人ですらやってたかどうか…というわりと無茶な、あと言っちゃうと案の定というか結構微妙な、なんかそんなやつです。Will Leeは横ベーシストの気さくで変なおっちゃん、Bill Leeはその父親でピアニスト。息子はともかく父親のほうは目立った活動ねーんだよなあ。言うたらWillもジャズってよりフュージョン側の人だけど。

多彩なゲストが思い思いの演奏をやりすぎた

いや1. Confirmationはいいですよ。ゲストはTs - Michael Breckerで、まるでセッション一発録りでもしたかのようなんだけど、むしろそれ故に悪くなく、のびのびとした闊達さのままに終わる。ピアノソロはつまんないけどバックとしてはそこそこ。ところでコンファメといえば前項でダメな録音を最初に紹介してしまったと悔やんでたけどよくみたら前々項で紹介したClifford Brownのライブ盤の中にあったのでノーカンになりましたね。

2. Now's the time。言っていいんですよ。いや、正直に言いましょうよここは。おれが最初にこの曲(録音ではなく曲。つまりテーマ自体がやばい)に触れたのは大学のジャズ研入ってすぐだったけど、「うわダッセェ何だこれ」って叫んだし。ゲストはTp - Randy Brecker & Lew SoloffのTp2本。これが悪ノリを呼んだのかそれともその結果なのか、Randyのソロはのっけから倍テンしかも速攻飽きてピヨピヨし始めるしそれを受けたLewは必要以上に探り探りやってる間に終わってるしDr - Billy Hartは終始ヤケクソだしでそりゃお前、「ひっでぇなこれ」でゲラゲラ笑ってるうちは楽しいかもしんねえけどさあ(今気づいたけどチェイスの3:48~49に奇跡のようなユニゾンが)…などとグチグチ言ってると3. Yardbird Suiteで沈黙するハメになった。もともとインストのテーマ部分のみならずオリジナルのCharlie Parkerの録音のソロ部分にまでクソ能天気な歌詞つけて陽気に、しかもめっちゃいい声で歌い上げるのを聴いたときにようやく「あっ、これギャグだったんだ」って気づいたのよ。いやータチ悪い。っていうかそれPharaoh ThundersMoment's Noticeのネタのパクリだろ。俺は詳しいんだ。

なおダメ押しとばかりに11. Quasimodoで同じネタをもう一回やります。

ギャグだと思って聴くと意外とこれが

いつも前半数曲の感想長く書きすぎてそれ以降流れで…みたいなことしてる気がするんだけど、Apple Musicで星ついてる曲(たぶん人気とかそんなの)も3トラック目までの間に登場する確率が8割という統計があるので問題ないと思うんだけど、このアルバムも聴いてると時々「ん?」みたいに引っ掛かりを覚える瞬間があるにはあるんだけど(4. OrnithologyでRandyがピヨピヨ始めた時とか、5. My Little Suede ShoesでFeat.Randyって書いてあるのにどこにもTpがいなくて代わりにVibがいて、まさか…?とか)、この文章「けど」で繋ぎまくってんのはおれがそれを面白いと思ってる以上の意味はないんだけど、流してて意外と聴いてられるっていうかそこそこバリエーションあるように思えてくる(9. Donna Leeのクールなアプローチは特に見事)のはCharlieが偉いのか、Charlieは偉いに決まってるが、Willが偉いのかよくわからなくなってくるのが本音。そうして気づいてみると12. Anthropologyの妙ちきりんながらカーテンコールのような華々しさに当てられて爽やかな後味なんか覚えちゃったりして、おれって騙されやすいのかな、などと心配になってきたりする。

とにかくこの作品、素直に正面からホメるには悪ふざけが過ぎてて、特にランディブレッカーお前この野郎って感じでLewのほうがずっと優等生なんだけど、それでもビッグネーム揃いなのは間違いなくて実力はピアノ以外全員達者だし、気に入らなくてもとりあえずCharlie Parker作のスタンダードの有名どころが覚えられるんでその役には立つかもしれません。その意味では特に1,4,5,7,9,12がメジャーかな。ところで12がAnthropologyなのは日本盤で、国外盤はThriving On A Riffって曲みたいなんだけどおれそれ知らないから勘弁してもらおう。

あ、ついでにDonna LeeについてはMilesが「イヤ実はあれ俺が作った曲なんだよね」みたいなことほうぼうで言ってるんだけどCharlie作でクレジットされてるからまあ余談ってことで。なおIndianaって曲の翻案です。

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