うそつき 恋人の嘘
これは、ラジオドラマのシナリオとして創作している。物語は4部構成になっており、それぞれ「夫の嘘」「友だちの嘘」「恋人の嘘」「店員の嘘」というタイトルがついている。
すべて男性による一人芝居である。シナリオのため、情景描写ではなくト書きがある。音声のみを想定している。
これは、一人の女性にまつわる4人の男たちの物語である。「本当」の「嘘」は何か、誰が「本当」に「嘘」をついているのか、「本当」の「うそつき」は、誰か。
**うそつき 恋人の嘘**
「エゴ、エゴ、エゴで、もううんざり。わたしのエゴもみんなのエゴも。誰も彼も、何でもいからものになりたい、人目に立つようなことかなんかをやりたい、人から興味を持たれるような人間になりたいって、そればっかしなんだもの、わたしはうんざり。いやらしいわ➖ほんと、ほんとなんだから。人が何と言おうと、わたしは平気」 サリンジャー『フラニー』
(ホテル・BGMはない)
ユウジ さくらと久しぶりに再会したのは、半年前だったね。すごく綺麗になってたから、びっくりしたよ。前からかわいかったけど、今は、ちゃんと大人の女性になってるって気がした。まさか、さくらにこんな風に触れられるようになるなんて、思わなかったよ。ぼくは、すごく幸せ者だよ。ああ、待って。ぼくが脱がせる。いいでしょ?
(長い間)
(ユウジのマンションの部屋。玄関の扉が開いて閉まる音)
ユウジ なんだ、まだ起きてたの?飲み会で遅くなるから、先に寝ててって言っただろ。そう。大学時代の先輩。ちょっと飲み過ぎちゃったから頭痛いよ。
ちょっと、ひっつかないで。本当に頭痛いんだから。・・・はいはい、わかったよ。おとなしく寝てなさい。オレ、シャワー浴びてくる。うん。大好きだよ。
(シャワーの水の音)
ユウジ シャワーは浴びてきたけど、髪を洗えてなかったから、さっぱりするな。
あいつ、寝たかな。不機嫌そうだったな。でも、最近はさくらとも会ってなかったし、あいつは気づいてないと思うけど、女は鋭いって言うしな。よくわかんないな。
さくら・・・なんか前より艶っぽくなってる気がするけど、まさか他にも不倫相手がいるとかじゃないよな。まさかね。
でも、それなら、オレが彼女の魅力を引き出してるってことなのかな。
なんで、こんなことになったんだっけ。あいつが、うるさく結婚って言い出してこなければ、こんなことにならなかった気がする。でも、さくらに会うことで、なんとなく、あいつの甘ったるい幼さにも対応できるようになってきた気がする。さくらは、あいつとは全く違うタイプだな。おとなしいし、大人だ。しつこく連絡をしてきたりしないけど、ふとしたときに、甘えてきてぽつっと「会いたいな」ってメールしてくる。でも、会えないときでも文句を言ったり、試すようなことをしない。まぁ、あっちは夫もいるんだから、オレに執着する必要ないってことなんだろうけど。
(シャワーの水を止める音。バスタオルの音)
ユウジ あいつ、まだ起きてるのかな。起きてたら、ちょっとめんどくさいな。しばらくリビングで待ってるか。
・・・さくらは、大学生のときから、かわいかった。あのときは、ほとんど話したこともなかったけど。一度、何かの飲み会のときに、同じ大学のやつとさくらがキスをしてるのを見かけたことがあった。あのときだ。オレがさくらのことを何となく気になりだしたのは。あれから10年以上経って、彼女と再会して、ホテル行ったりするようになるなんて、不思議だな。あのとき、さくらは、男の腕に抱かれて、うっとりと目を閉じて、しなだれかかってた。居酒屋の廊下の隅で、二人がこっそり抱き合っているのをオレは見て、その姿が忘れられなかった。ああいうのを、恍惚とするっていうんだろうか。
(メールの着信音が鳴る)
ユウジ え、さくらからメッセージ?
は?離婚?どういうこと?
え、なに、それを伝えてオレにどうしろっていう意味?
え、なんて返せばいいの?
どうしよう。。
(間)
(メールの着信音が鳴る)
ユウジ あ、またさくらから?
「別れましょう。早く彼女と結婚したほうがいいと思うよ」って、えー、マジか。
(長い間)
(次の日の朝。スズメの鳴き声がする)
ユウジ おはよう。あーソファで寝ちゃったんだな。疲れててさ。
は?何怒ってんの?
いや、だから言ったじゃん。昨日、飲みすぎて頭痛くて、、先輩に飲まされたんだから、しょうがないだろ。ちょっと、大きな声出さないで。頭に響くよ。
おい、待てよ!
(扉が開き、閉じる音)
ユウジ あーもう、なんなんだよ。なんでそんなに怒ってんの?これ、追いかけなきゃいけないの?勘弁してよ。着替えるのめんどくさいし。ちょっとほっとこう。あいつ、すぐカッとするところあるからな。ああいうところ、もうちょっとなんとかしてくれたら、結婚だってちゃんと考えるのにさ。なんで一方的に怒って出て行くのかな。オレにどうしろっていうんだよ。あーめんどくさい。せっかくの休みなのに。
(間)
そういえば、さくらのメッセージ、あれ、どうしよう。別れましょうって書いてあったけど、あれって付き合ってたことになってるのかな。付き合ってって言った覚えないし。言われた覚えもないし。別れる、か。オレたち、別れたのか。
(長い間)
(一ヶ月後、扉が開き、閉じる音)
ユウジ ただいまー
あれ、あいつ、まだ帰ってないんだ。うわ、なにこれ、(雑誌のページをめくる音)結婚情報誌、、古い手使うなぁ。また圧力かよ。
(ため息)めんどくさいなぁ。この前もケンカしたばっかなのに、よく結婚とかって考えられるよな。わけわかんないよ。
(間)
そういえば、さくらから、別れたいってメッセージが来てから、一ヶ月か。もともと、そんなに頻繁に会ってたわけじゃないし、長い付き合いでもないから、別にさくらから連絡が来なくなっても、生活が変わるわけじゃない。恋人と別れたっていう感じじゃない。そもそも、オレたちの関係は、恋人とかじゃなかった気がする。お互いに割り切った関係だと思ってた。
なんで、さくらは、急に別れようなんて言ってきたんだろう。離婚するからっていうのは、理由にならない気がする。旦那さんにバレたとか?
それは、まずいな。
でも、あれから連絡は来ない。なんか、バレたとかじゃない気がするんだけど。
・・・結婚か、そんなにしなきゃいけないものなのかな。よくわかんないな。女ってなんですぐ結婚とか子どもとか言い出すんだろう。それが本能なのか?
オレだって、そんな風に追い詰めるみたいに言われなかったら、ちゃんと考えるのに。なんか、こういうの嫌だな。
今から考えたら、さくらは、大人で、そんな風にオレに何か求めてきたり押し付けようとしたりして来なかったな。
なんか最近、イライラして彼女ともうまくいかないのは、さくらと会ってないからじゃないかな。さくらといると、なんかバランスがとれてた気がする。もう一度会って、なんで別れようなんて言い出したのか、聞こうか。オレのこと嫌いになったわけじゃないんじゃないか。だって、最後に会ったとき、あんなに嬉しそうだったじゃないか。
(レストランのBGM。)
ユウジ あ、さくら、こっち。ごめんね。急に呼び出して。この前のメッセージ、びっくりしたよ。急だったからさ。一緒に過ごした後だったじゃない?何かあったのかなって思って。
旦那さんと離婚するって、本当なの?大丈夫?
そう。悩んでたもんね。
それはそれで、仕方ないと思うけど。
オレ?オレは、あの子とはずっと同棲してるけど、なんか結婚って感じじゃないかなって。考えてないこともないんだけど、いまいち、踏ん切りがつかないというか、さ。お互い、子どもなんだよ。
あのさ、別れようって、言ってたけど、それってもう会いたくないってこと?オレのこと、嫌いになっちゃったの?
オレ、さくらのこと好きだよ。さくらと一緒にいると楽しいし。癒される。こうやって、一緒にご飯食べたりするのも、すごく嬉しい。さくらも、そう思ってくれてるのかなって、思ってた。
さくらに言われて、気づいたんだよ。オレ、さくらと一緒にいればそれでよかったから、さくらがどんな風に考えてるかとか、ちゃんと向き合ってなかったなって。だから、これからは、さくらが何を考えてるか、もっとよく聞きたいって思ってる。だから、教えてほしい。さくらとずっと一緒にいたいんだよ。愛してるんだ。
さくら バカじゃないの?あんたって、ほんと、うそつきだよね。
「うそつき 恋人の嘘」完
最終回、店員の嘘をちょっとだけ予告
シュウ 『いらっしゃいませ、ワイキキカフェへ。』それが、僕がこのバイトで最初に習った言葉。うんざりする。けど、この言葉を言いたがるやつは、意外と多い。
最近、店舗数を伸ばしているチェーン店のカフェ。僕がここのアルバイト募集に応募したのは、単純に、通っている大学から近く、駅前なので利便性がいいからというだけだった。だけど僕がここのアルバイトに決まったというと、周りの人間は驚いた顔をする。やれ、あそこは顔が良くなきゃ入れないだとか、さすがだとか。僕は、なんとも思わない。くだらないことだ。
ここでは、店長含めた社員も名字ではなく名前に「さん」付けで呼ぶことになっている。外資系企業の真似事だ。僕の働く店の店長も、スタッフみんなから「ユミさん」と呼ばれている。
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いよいよ、次回が最終回です。最終回で見えてくるものは何か?
感想お待ちしてますので、ぜひ!!
この話は、全4話で構成されています。順番通りに読む必要はないので、ほかの2話もぜひ読んでみてください!
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