母になり、世の中は「自分が思っているより優しいって」知った
親のほうが、子どもから教わることはたくさんあるなぁ……と思う。
書ききれないくらい、今までも。
そしてこれからも。
*
わたしには3歳の息子が一人いる。
毎日、やんちゃでよく動き回る元気いっぱいの息子。
喜怒哀楽、くるくるくるくる様々な表情を見せる。
それにともなって、わたしも喜怒哀楽くるくる変わる。
自分がこんなに感情豊かだったのか……と衝撃とともに思い出させてくれたのは、まぎれもなく息子だ。
「さおりって、怒ることあるの?」
「いつも穏やかで、にこにこしていて優しいよね」
かつての知り合いや友達から、言われてきた言葉を思い出しては
「全然そんなことないよ!(そして、わたしも知らなかったよ)」
って盛大にツッコミを入れて訂正したいぐらいだ(笑)
今の私を見たらみんなどう思うだろう?……なんて面白おかしく考える。
そのくらい、全く余裕がないちっぽけな自分を目の当たりにすることが増えた。
せっかく立てた予定も、大体は計画通りにいかないし、「えっ!このタイミングでそれをするのか?」など、ここぞとばかり「自分の心の器」を試されることが増える。
すぐにキャパがいっぱいになる自分に出会った。
「そんなこと聞いてなかったし、知らなかったよぉ……」
夫につい弱音を吐く日も、「わたしは母親向いてないのかも……」ってふさぎ込む日も、自信をなくす日もたくさんある。
そんな感じで、毎日が(心の中が)サバイバルな気分だ(笑)
だけど。それも含めて「楽しいな」って思う。
自分で選んだことだから、大変でも楽しい。
保育園やお店にて、すれ違う母親達を見ると、「お互いがんばりましょ…!」と勝手に仲間意識を感じるのはわたしだけではないだろう。
また、息子は「大人になっていく過程で忘れてきたものや、なくしたもの」をもう一回思い出させてくれる。
「こんな気持ちになるの、子どものときぶりじゃない?」って。
デジャブのような感覚が日常で起こる。
わがままや、イヤイヤ言ってわたしや夫を困らせる息子に対して感情的になりそうなとき。
グッとこらえて一旦深呼吸して(できないときもあるけど)、息子を観察すると、
「わたしも子どもの頃、ほんとは、嫌いな野菜たべるのはイヤだったなー」
「怒られるのがイヤだったんだよな……」
「気持ちを分かってほしかったんだなぁ……」
「ひとりで待ってて、本当はさびしかったんだね」
と、「ずっと昔に忘れていた何か」を思い出すことがある。
息子は「ママが落としたものは、これじゃない?はいっ、これ返すね」
って、さまざまな「感情」をわたしに運んできてくれる。
良い感情も、悪い感情も、だ。
だから、いつも自分を試されているような気持ちになる。
親になると、みんなこんな気持ちになるんだろう。
子どもを見ていると、自分を見ているような感覚におちいる。
「あれ?自分が目の前にいるじゃん……」って(笑)
*
「子育て」っていうけれども、実際はわたしがもう一度、育てられているような気がする。人間ひとり育てるって大変なのだ。
けど、圧倒的に幸せな時間が増えた。
昨日も、「世の中ってあたたかいな」「わたしって恵まれているな」
と感じて心があたたかくなったできことが、いくつかあった。
息子が産まれた、あたたかい春の季節からはじまったこと。
こころもふっと軽く、あたたかくなる日々。
息子が産まれてから、知らない人が息子にあたたかく話しかけてくれる人がいるが増えた。
人って、けっこう気軽に話しかけてくれるものなんだな。優しいな。
って気付き、衝撃だった。
なんとなく、世の中は厳しくて大変だという観念があったからだ。
だから「社会では、がんばらなきゃな」とずっと思って、「社会用の仮面」をかぶらなきゃ!って思っていた。信じてギュッと握りしめて、こわくて離せなかった。
けど、そうじゃないのかもしれない。
母になって、「あれ?わたしの思い込みもあるのかな?」と感じることが増えた。
「なんだか、みんな優しいのかも……?」
*
まだ仕事に復帰する前、息子が赤ちゃんだったとき。
抱っこひもで息子をだっこして、一生懸命スーパーに買い出しや、小児科、自分の通院など…どこにいくも一緒に出かけてた。
「急に泣きわめいて、周りの迷惑にならないかな?」
「トイレは大丈夫だったかな?おむつ替え用の台はあったかな……?」
まだまだわたしも未熟で、常に寝不足で、気も張っていて。
出かけているときも、あちこちに気を巡らせて…といった具合だった。
そんなとき、
「かわいいねぇ」
「何ヶ月ですか?」
「にこにこ笑ってる、お母さんと一緒で嬉しいんだね」
「お母さん、よくがんばっているね」
など、親しみを込めて話しかけてくれる道行く人が、たくさんがいた。
そんなわたしにとって、道行く人がかけてくれるあたたかい言葉達は、ふっと「ひとりじゃないんだな」と気がゆるみ、涙が出そうになるほど嬉しかった。
「思っているよりも世の中は優しいのかも」と息子を通じて、そう感じた。
*
家族連れの多い、ショッピングモールや公園。
フードコート内の独特のざわつき。
子どもたちのキラキラ輝いてる目と、にこっとした笑顔。
それを優しげに、ニコニコ愛おしく見つめる両親たち。
子どもが産まれる前までは、素通りしていた空間や、人々。
世の中は厳しいし、人にもうまく頼れない。「自分ひとりでがんばらなくちゃ」と過ごしていた、息子が産まれる前までの日々。
なんてあたたかい空間があるんなんだろう、と親になって気付いた。
「もっと人を信じて、頼っても大丈夫だよ」
「わがままになっても大丈夫だよ」
息子はそんな風に、いつもいつも新しい世界を、新たな視点や発見を教えてくれた。
*
あなたが産まれた5月は、もうすぐ。
この春は、近所の公園でお弁当を持っていってお花見をして。
たくさんお散歩して。
そして、また迎えられた春をお祝いしよう。
これからも、たくさん家族の時間を大切にしよう。
家族や、周りにありがとうって毎日かかさず伝えよう。
あなたが産まれてきてくれて、わたしはもっと自分の人生を見つめられるようになった。
自分が自分を息苦しくしていた思い込みや、常識を手放すきっかけになった。
だからもっと、わたしは肩の力を少し抜いて、自分を生きることを楽しもうと思うよ。
「ママ、いつも楽しそうだよね」
ってもう少し大きくなったあなたには言われたいし、背中を見せたい。
「大人って、楽しいよ」
って息子へ返したい。
わたしが、親に対して思えなかったこと。
夫婦仲の良いことや、「親は楽しそうだな」と感じること。
けど、子どもはそれを一番望んでいて、子どもにとってしあわせなこと。
子どもの頃の自分が叶わなかった想いや願いを、今度は自分で叶えて繋げたい。
人は、自分が思っているよりも強いと思うから。大丈夫。
春のはじまるある日の、小さな決意。
あなたは、もうすぐ4歳に。
わたしは、母になって4年目に。
これからも家族で一緒にあるいて、楽しむって決めている。
春の柔らかい日差しの中、「あ、おはながさいてるよ!きれいだねぇー」と嬉しそうに話す息子とつないでいる手に、グッと少し力をこめる。
あなたと歩く道には、これからもきれいな花がたくさん咲いてるはずだよ。
歩きながら、そう思った。