架空小説書き出し➀

 バスケットボールの硬い表面が体育館の床を跳ねる音と、威勢のいい女子たちの掛け声が混ざって聞こえてきた。
大変だな、と思った。夏の下校時刻は19時で、今はその5分前だ。この時間まで練習を行っているということは、顧問だかコーチだかが特別に延長を申請していて遅くまで部活動を行っているということだろう。そういえばうちの女子バスケ部って強かったよな。体育館の横の通路を歩きながらぼんやりと考える。
 家まで徒歩15分。今日は本屋に寄って新刊の漫画でもチェックしようかと帰り道のプランを立てながら校門を出て右に曲がる。すると意外な事に、うちの生徒の大半が利用するバス停に、同じクラスかつバスケ部のキャプテンを務める倉橋が並んでいた。女バスは練習中だったはずだけど。
 彼女の制服の裾はスカートからはみ出ているし通学鞄の口も空いていて、予定外の何かで慌てているらしいことは想像に難くなかった。真横を通り過ぎるときにちらっと顔を横目で盗み見てみると、これまた想像に難くない焦った表情を浮かべていて、また、大変だな、と思った。

ー『オレンジファクトリー』

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