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寄る辺なき仕事

 金属音、公道を走るフォークリフト、焼き削れたゴム臭。
 何年かぶりに降り立ったローカル駅を出たらすぐに、何かを何かで削っている工場や、和風小物と果物を横並びで販売している商店、隣との間隔が2㎝しか無い様な住宅が連なっていた。そしてその中に何の違和感もなく目当ての三洋化学も連座していた。

 磯野家の玄関の様な音をたてて、横開きのドアを開けると聞き覚えのある妙に甲高い声が聞こえる。来はった?奥に来て貰ってぇ。せんせどうぞ奥へと誘われ、前回と同じソファーに座して即、頼みたい事がおまんねん、と典型的な関西弁で話す社長の耳の穴から結構な量の毛が生えている事に気づき、洋三はそれが気になって話が入って来なかった。せやからな業界新聞に記事載して貰ろてて、ほんで義理かかれへんから、月に一回は小さい広告出さなあかんねん。でもうっとこみたいな小ぃさい会社は新製品とかあらへんやん。広告に載せる事なんか無いやん。ほんで広告のとこに「小説載したろ」思てん。

 洋三は業界紙の毎月末号に、短編を連載する事になった。


〈掲載…2017年1月 週刊粧業〉


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