ろけんろーらー(前編)
煙草の煙がスモークを焚いたように煙り、地下の薄暗い店内には様々な臭気が蔓延っていた。香水混じりの汗の匂い、使い込まれたカウンターに染み付いた、かつては飲物だったカクテルの残りかす、しばらく掃除していないエアコンから供給される空気に混じった黴。深夜のアルコールで脳がいけなくなって注文された、冷え切っているミートソースを乗っけた炭水化物の塊。それらが絶妙のハーモニーとなって、店の中を漂う。
洋三は古い友人の店に来ていた。
そして今、暗いステージにスポットが当たり、ベースギターを抱えた友人が気だるそうに立っていた。どうやらチューニングしている。音楽音痴の洋三には友人が何故、足元のアクセルの様なものをカチカチ踏んでいるのか、弦を緩めたり、張ったりして音を確認しているのかがピンと来なかった。メンバーと談笑しながら器用だなと感心させられた友人も実は作家で、しかも洋三よりすこぶるメジャー級、且つ本が売れている。
そして、それ以上に調葎って格好良いなぁ。
〈掲載…2017年5月 週刊粧業〉
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