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ビューティ クゥィーーン

 座椅子の背もたれに首を預けたまま寝入っていた真帆は、つけっぱなしのテレビから聞える笑い声で目を覚ました。一人息子の世界が小学校から帰って来る迄の貴重な時間に、テレビをつけたまま午睡を貪る事を至上の悦びとしていた真帆が、こんな短時間のまどろみで眼を覚ます等、本当に希有な事である。

 番組は限られた予算で成立させるために、どうでも善いテーマを、各ジャンルのなんちゃって識者が番組を炎上させる態の、最近ありがちな番組だった。テーマは女性の美は男性のものか?女性のものか?という本当に誰が興味あんねん的なものだったが、活目に値するのはコメンテーターの一人の女性が、普段番組を牛耳っている三人のおじ様達をけちょんけちょんにやっつけている様が痛快で、観客を爆笑の渦に誘っている事だった。声のトーン、ワードの選択、引きの間合いが絶妙で、丁度怒られないポジションをキープしながら、hit&awayで笑いを捕っている。彼女の職業はビューティ芸人。真帆の午睡を打ち破るニューカマー誕生の瞬間だった。


〈掲載…2017年2月 週刊粧業〉


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