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嘘のつけない男

 スタイル・カウンシルのポール・ウェラーが懐かしいナンバーを唄っている。ハスキーな高音は決して歌唱力に頼らず、ただならぬセクシーを醸し出している。
 テーブルを挟んで座る男は、洋三の担当を長年続けてくれているパートナーとも言える編集者だった。ここのとこなんだけど、もっと率直に表現した方が良いんじゃないですかと、それこそ率直に言ってくれる有難いアドバイザーだ。文頭のこの辺りはキャッチーで惹きつけるけど、この中間での遊び表現が独りよがりというか……「ちょっと鼻に付く感じがするんだよねぇ。」もっとこうナチュラルにさと言いつつ、左手に原稿、右手に小さな穴のあいたコップから熱いコーヒーを啜る様を観て、内心で「火傷すればいいなぁ。」と洋三は思っていた。
 洋三はお洒落なインテリア、気の利いたメニューで御馴染のあのカフェが苦手である。その非の打ちどころのない感というのが耐え難い。コーヒーのメニューの割に紅茶メニューが少ないのも気に食わない。それこそちょっと鼻に付くのである。


〈掲載…2017年4月 週刊粧業〉


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