朱鷺 ニッポニアニッポン
高さ80㎝、直径50㎝。これが今現在のウイッチ、つまり新しく包家の一員となったノーウィッチカナリアの生息域である。そのうち放し飼いに近い状態になるかも知れないが、先ずは環境に慣れるまでの間、籠の中に限定されていた方が安心するらしい。
ウイッチの視力がどの程度なのかは未だ未知数だが、少なくとも部屋の中は見渡せる筈であるし、ひょっとすると窓の外に見える景色や、遥か彼方の空の高みすら見えているのかも知れない。しかし不思議な事に窮屈そうには視えない。少しでもゆとりのある空間を提供しようと、一羽にしてはかなり大きめの籠を用意したのだが、それは人間が作り上げた勝手な杞憂なのかも知れない。
テレビでは同じ鳥類でありながら、絶滅危惧種に相当する鳥がニュースになっていた。「朱鷺(トキ)」である。
野生での繁殖が困難になっているらしく、日本でも野生のトキは死滅してしまったとの事。今やトキは中国でのみ野生のものが生息しているらしく、日本では人工飼育が盛んであるという事をアナウンサーが喋っていた。
誰もが知っているトキではあるが、洋三はトキを観たことが無かった。
手厚い保護が無ければ繁殖さえ困難な種。
それはもう滅んでいるのではないだろうか?
では野生の人間は?そう思った時、社会であるとか文明であるとか、生活圏であるとか、これらは全て籠であると認識した洋三は、籠に自ら戻る鳥達を不憫に思う傲慢さに気づいてしまった。
巣、群れ、縄張り、所属、社会的立場、これらは全て同義語なのだと。
日々刻々と変化する環境に、柔軟に適応して進化する。それこそが生命力なのだと。
ウイッチから観た洋三は、確固たる籠を持たない、哀れな動物と映っているのかも知れないと……。
〈掲載…2013年 「風雅」カタログ〉
★製品「トキ」にちなんで作られたお話です!
「トキ」製品ページ