忖度
ケーブルテレビとはいってもやはり楽屋はある。しかし、衣裳を着替えるような事は無く、そうなるとスペースの問題からか、男女同室の大部屋で準備する事になる。洋三にも一応のメイクさんがついて、収まる様子の見えないTゾーンの照かりを、現代化学を駆使して何とか抑えようとしていた。同室の女性ゲストは今、露出が急上昇しつつあるビューティ芸人で、そのジャンルに相応しい美しさだった。「Sちゃんあれ持って来て。」そう彼女はお弟子さん(?)にいうと、Sちゃんは一瞬戸惑いを見せながらも直ぐに小箱からあれを取り出し、彼女に渡した。あれとはコサージュだった。それも控えめに言ってさえ巨大という表現が合う。田舎の橋の竣工式でテープカットする村長が胸につける花を超えている。センスの良さは疑うべくもないのに何故?Sちゃんの眉の位置は困惑を表しながら、それでも何かに忖度していた。「ほらあの人こういう番組観てるからさ。」忖度の正体が判った。忖度する先輩に対する忖度である。昨今、悪者にされがちな忖度の、美しさを感じる事が出来た瞬間だった。
〈掲載…2018年1月29日 週刊粧業〉
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