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お芋は今踊る

十勝は今、冬に向かっている。
だんだん寒くなる中で、夏には緑だった畑が、どんどんと茶色い土の姿に戻っていく時期だ。
9月から続く収獲は忙しく、10月の今はどうやらじゃがいもの収獲がピーク、いや、もしかしたらもうピークを過ぎつつあるのかもしれない。
そんなじゃがいもの産地での今を綴る。


中札内のじゃがいも

冬になる前に収穫を終えるためかあちこちの畑でトラクターが休みなく動き回っている。
日が暮れるのが早くなった最近は、ランプをつけて薄暗くなった畑をゆくトラクターを幾度も見かける。暗い畑をピカーっとライトをつけて走らせる姿には、昼のゆったりとしたいで立ちとは違う、別の顔だ。

ここ中札内村で作られるじゃがいもの多くは、でんぷんになるらしい。

関西人ならよく知っている「マロニーちゃん」だが、あれの原材料もでんぷん。
中札内にはマロニーを作る大きな工場があるそうで、なんと学校の授業にマロニーの会社の人が来ていたらしい。マーロニーイちゃん♪、のCMが頭の中を流れてゆく。

そのほか、中札内のじゃがいもでんぷんは菓子や即席麺の原材料に広く使われているそうだ。

かつて食品メーカーに向けて原料を売る営業として働いていたことがあるが、その頃よく耳にした「加工でんぷん」。
でんぷんは添加物として、あらゆるものの粘度を出したりつなぎとして重宝されていた欠かせない素材だ。
あ、今その生産現場にいるのか、と思うと何かがつながったような気がする。

それにしても、時給率1000%を超える十勝ではまさかの加工食品までに十勝産原料が使われているというすごさ。
お菓子やラーメンのパッケージをひっくり返して「でんぷん」という表記を見つけたら、十勝のいも畑を思い描いてみて欲しい。


いもの収穫

じゃがいもの収穫は豪快だ。

収穫時には、畑の脇に大きな金網の箱が積み上がる。
動物1匹捕獲できる大きさの、罠みたいにも見える金網だが、これにじゃがいもが満杯に詰められて、畑の脇にどどっと並べられる。

トラクターにつながれるのは丸い芋掘り機。
ぐるぐる回る機械は、土を掘り起こし、芋だけを取り込んで回転で土を落としながら最終的に芋を収穫する。
ものすごい音と共に、ぐるぐる回る機械と、踊る芋。

丸い機械が回転しながら進む

平日の昼間、裏の庭でガタガタ轟音がするので行ってみるとこれだった。
庭の裏の畑のじゃがいももいよいよ収穫される時期を迎えたらしい。
トラクターの後ろでは丸い機械が回り、それに片手で捕まりながら乗っかっているおじさんが1人。広い畑を、畝に沿ってどんどんと掘り起こして進んでいく。トラクターが通った後には、土臭い芋のにおいが漂っていた。

テレワークの仕事の合間にいきなりこの豪快な芋掘りに遭遇し、自然と、うわーという言葉が漏れる。
どこにも出かけてないけど、ザ・北海道を見たなという気分。じゃがいもの一大産地に住んでいるならでは感を味わえた。

いもを食べる

村の体験イベントでメークインを収穫して、箱いっぱいにもらう。
ポテトチップスを作ってという息子のリクエストに答えてポテチを作ることにした。
メークインは煮物だろ、という心の声に蓋をして揚げる。

スライスするのは息子が担当。
スライサーで丁寧にスライスしたポテトを少しだけ乾かしてから揚げると、
わぁ、本当にポテトチップスだ。

フライドポテトを作ったことはあるが、ポテトチップスは初めて。本当に市販のものと同じ、薄くてサクッとしたチップスが出来上がった。

なんてシンプルなんだろうか。
そしておいしい。

しかし、揚げても揚げてもちょっとしかできないこの大変さ。
揚げたそばから子どもたちの手が伸びてきて、なかなか山盛りにならない。
袋いっぱいのポテチを100円ちょっとで売ってくれているカルビーのポテトチップのありがたさを初めて実感する。

人生初の手作りポテトチップス

結論、ポテトチップスはたぶん買ったほうが断然いい。
いもの産地にいるからって、毎回手作りすることはしないだろう。
が、一度作ってみたことで一袋のポテトチップスを見る目が変わった。

棚に並ぶパッケージの向こう側に、原料のごろりとしたお芋そのものや揚げてる工程に介在する人々を想像できるようになる。

スナック菓子の価値向上は、工場見学をさせるよりも自分で作る経験をした人が増えることによるのでは、などと思う。
100円のポテトチップスが神々しく見える体験をしたいなら、ぜひ一度お芋からポテトチップスを作ってみよう。

おいものお祭り

大正区で開かれた「メークインまつり」にも行って来た。
メークインの産地、大正区のJAが主催で、毎年開催されているお祭りらしい。ポスターを見かけてこれは行かねばと、夫と出かける。

じゃがいものお祭りには、お芋のコンテンツが盛りだくさん。
できたてのじゃがバターの無料配布(1人2個)、
1000円で大きな袋いっぱいにメークインが詰め放題。
直売と地方への発送コーナーも設けられ、特別栽培のメークインが箱売りされている。
ポテト料理を出すお店やキャラクター野菜三兄弟のステージなどもあり、近隣からたくさんの人が来て賑わっていた。

せっかくだからメークインを買ってみよう
と思うも、わが家にはすでにじゃがいもの在庫がいっぱい。
それなら誰かに送ろうか、
と特別栽培のメークインをしばらく眺めてみるが、メークインの良し悪しがよくわからない。
うーん、ちょっと立派でみためもキレイな気がするのだが、はたして味も違うのだろうか。

決めかねていたら、
「北海道から送られてきて嬉しいのは、カニとかメロンとかじゃないか。」
と夫がいう。
確かに。
こんなに芋の産地に暮らしていても、芋を送るのを葛藤してカニやメロンを送っている人、いそうだな。かくいうわたしも。

どんなにいい芋でも、じゃがいもを差別化って難しい。コモデティ化した農作物のブランディングは難題である。
いつの日か箱入りじゃがいもがメロンレベルにまで喜ばれる日がが来ると良いなぁと、願う。

箱売りのメークイン
買うかを立ち止まって考える

結局箱買いを見送り、詰め放題を横目に眺めながら帰途についた。

先日は学校農園でも収穫作業があり、子ども達がじゃがいもを持って帰って来る。
道の駅にもいろいろな種類のじゃがいもが並び、気になっているのだが、どんどんと集まる実りに、しばらくじゃがいもを買う必要はなさそう。
まずは家のお芋を大事にたべていこう。

この土日もあちこちで芋掘りトラクターが稼働中。
冬に向けての収穫のスパートを肌で感じつつ、豊かな実りをいただく日々がしばらく続きそうだ。

裏のじゃがいも畑
収穫が進みトラクターの軌跡が残る

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