だから、歩いて行こう
子どもの山村留学で、十勝の村"中札内"に短期移住している我が家。
2年目の春を迎えての暮らしを綴る。
あの道をゆく
ちょっとカラダを動かしたいなぁという週末、
中札内への片道7キロの一本道を
歩いて行こう、と思い立つ。
移住2年目は「やったことのないことをやる」がテーマ。
いつも最寄のマックスバリュまで通う、車で10分の道のり。昨年はサイクリングに挑戦し、ヘトヘトになりながら自転車を漕いでいた。
いつかは歩いて行ってみたい、と思いつつ過ごしてきたのだが、
「2年目」のプライドに、いまがその時と背中を押された感じ。
去年のサイクリングのようすはこちら
村まで歩くハイキングと称して子どもたちを誘ってみると、行こうかな、と意外とのってくる。
気持ちの冷めないうちに、水筒とお菓子を準備してさっそく出発。
まっすぐ続く一本道を子どもたちとぶらぶら歩いていく。
信号も標識も何もない一本道、
チェックポイントを決めて、そこに着いたらおやつにしようということにする。
子どもたちと決めたチェックポイントは
次の5つ。
①おしゃれな家
②ドミちゃん牧場
③砂山
④テニスコートのある豪邸
⑤ポニーのいるところ
いずれも道の途中にある、畑以外で思いうかぶ貴重なスポット。
なんの変哲もないともいえる風景なのだが、それぞれがこの一本道には欠かすことのできない構成要素だ。
いつか中札内を離れても、このスポットたちの名前を上げれば、多分わたしは脳裏に鮮明にこの道を思い描くことができる。
目指すものたち
まずは右手にみえてくるはずの「おしゃれな家」。
何もないところにポツンと一軒立っている白壁の家は、家の周りに広がる手入れされたガーデンがおしゃれ。きれいに刈られた低木とかわいらしい花々。どんな方のおうちかは知らないが、わたしは勝手に"ナチュラルライフを送る素敵なグレーヘアの奥様"を妄想している。
この家おしゃれだよねえと言いながら通り過ぎることが多かったからか、
「あのおしゃれな家」で通じる、だれもが認める"おしゃれな家'。
その次の「ドミちゃん牧場」は、ちょうど道のりの真ん中地点あたりにある大きな牧場だ。
夜でも明明と明かりがついているので、暗闇の中で車を走らせるとき、この明かりを見つけると本当にほっとする。そんな、心のよりどころとも言うべき大きな存在の、ドミちゃん。
牧場には番犬がつきものか、こちらの牧場にもよく吠える犬がいる。たまに道のきわまでやってくることがあり、子どもたちはここの番犬を怖がっているのだが、かくいうわたしも、近くを通るときは「牛を盗みにきたわけじゃありませんよ!」と心で念じながら、猛スピードで自転車を漕ぐことにしている。
この日はたまたま番犬くんは出てこず、のんびりと通り過ぎることができた。
その次の「大きな砂山」は、石や堆肥も積んである集積場のことだ。
どこからともなく運び込まれた砂や石がそれぞれにどーんと積み上がって置かれているスポットで、子どもたちにとってはなぜか印象に残る場所らしい。
十勝ではたまにこういう集積場を目にするが、積まれた砂がどんなふうに使われていくのかは謎のまま。どこから来た砂なのかも、謎のまま。
後半は村の中心部に近い2つ。
まずは「テニスコートのある豪邸」。
横に、とある会社の看板が出ているので、おそらくその経営者さんのお宅なのだと思う。
建屋の前に立派なテニスコートがあり、たまに誰かがプレイしている時もある。
初めて見たとき、え!こんなとこにテニスコート?!と目を疑ったが、欲しいものはなんでも作ってしまうという豪快さはいかにも十勝らしい。
だって土地はたくさんあるのだもの。
最後の「ポニーのいるところ」には、その名のおとり、ポニーの親子がいる。
去年生まれた赤ちゃんポニーとお母さんポニーのペア。のんびり草をはんでいる姿には通り過ぎるたびに癒されている。
観光スポットかと思いきや、このポニーはどこかのうちのペットのようで、乗れるわけではないとのこと。ペットとしてポニー飼えちゃうのがすごい。
冬場は雪原になるのでポニー達はどこか屋内にいるらしい。どうしてるかなと思っていたら、春先に、ヒモをつけて散歩させてもらってるポニーたちを見た。
飼い主さんとおぼしき方が、まるで犬の散歩のようにポニー2頭の手綱をリードのように短く持ち、てくてく歩道を歩かせているのにはびっくりした。ペットのポニー、という説明が本当にしっくりきた光景。
畑とスパークリング
さて、両脇の畑はずっと続くが、まずは、の「おしゃれな家」が、ゆけどもゆけども見えてこない。
しかたなく、とりあえずは「あの見えている赤い屋根のところまで」と決めてみたが、歩けども歩けども赤い屋根までの距離が縮まらずに再びめげそうになる。
砂漠のオアシスってこんな感じか。
見えているのにつかまらないものを目がけて、ひたすら歩いていく。
歩いていると、白鳥に遭遇。
思わずテンションが上がりひとしきり写真を撮る。
その後、白鳥を見ながらおやつにしようと、歩道に腰かけて休憩。
白鳥を間近に見ながらの休憩は、めちゃくちゃ眺めはいい。が、どこからともなく堆肥のにおいがやってくるので、おやつの味わいはかき消されがちだ。
おやつにはカンロの新製品、スパークリングストロベリーのピュレグミを1人一粒ずつ分け与えて味わう。
ストロベリーの酸味と甘味が適度に脳を刺激してくれて、楽しい。
しかし、どのあたりがスパークリングなのか?
元食品メーカー出身の母としては、原材料表示をみながら頭をひねる。
パチパチ感はないが、なんとなく「スパークリング」、と言いたい気持ちがわかる気はする…という、爽やかな味わい。その秘密は、グミに包まれたフィリングにあるらしい。原材料表記にある重曹がきっと使われているはず…というところまで考えを巡らせるが、これより先は開発者のみぞ知る領域だろう。
なんだかハイテクなお菓子と、誰もいない畑の広がる風景と。
ふと、都内のビルで"スパークリング"味の再現を目指し試作を重ねる開発者の方が目に浮かび、
それを今、こんな田舎で楽しむ者がいることの不思議をしみじみと思う。
その後もカンログミ一粒を目標に、歩いては休憩、をくり返し、なんとか子どもたちを最後まで歩かせることに成功。
グミの力はすごい。
結局、車で10分、自転車で40分、の道のりを、徒歩で2時間ちょっとかけて到着した。
やったことのないことへの挑戦、の目的は達成され、
新たな挑戦ができたことは子どもたちの自信につながったようだ。
とくに娘は「またやろうか」と言うと、いいよ!と即答してくるほど乗り気。
道の駅でご飯を食べつつ、
ヘトヘトにつかれた帰りは迷わず夫に車で迎えにきてもらう。
その後の疲労が半端ないから、かなり勇気のいるチャレンジだが、「晴れた日に」&「おやつをたくさん持って」の条件を必須にしてならまた楽しめそうなレジャーだ。
白鳥はもう見えなくなったが、今やトラクターがあちこちの畑で出動中。
綺麗に描かれた畑のラインと遠くにうごめくトラクターを見ながらおやつ、なども、十分北海道らしさを楽しめるかもしれない。
もう一度やるかどうかは置いておくとして
片道7キロの道を、グミを頼りに歩いた経験を子どもたちはいつかどんなふうに思い出すだろうか。
白鳥と、腰痛母さんと、甘酸っぱいグミの味と、ゴールしたときの嬉しさと。