Sansanのプロダクトオペレーション「5つのP」
こんにちは、Sansan事業部プロダクト室でProduct Operations(Product Ops./プロダクトオペレーション)を担当している尾部です。
プロダクトやプロダクトマネジメント組織の拡大とともにあるProduct Ops.の必要性
私は、開発とPdM・デザイナーが同じ組織だった頃からこの役割を担い始め、Product Ops.を担当して約6年になります。現在は開発とは別の組織となりましたが、引き続きプロダクト運営の重要な部分を支えています。
Sansan事業部プロダクト室には、PdM13名、デザイナー13名、データ分析者1名、Product Ops.3名の計30名が所属しています。私たちは、Sansan、Sansan Data Hub、Sansan 名刺メーカー、Sansan Labs など、幅広いプロダクトに対応しています。重要プロジェクトを同時進行させながらも、並行してユーザビリティの改善に取り組んでいます。組織が拡大する中で、プロダクトマネジメントの複雑性が増していますが、Product Ops.がその調整役として機能しています。
初期の頃、PdMやデザイナーがそれぞれ5名ほどの時代には、Product Ops.専任者は必要ありませんでした。小規模なチームでは、それぞれのやり方でうまく進行できていたためです。しかし、プロダクトバックログの一元管理や横断的な優先順位付け、関連部署との調整が求められるようになり、組織全体のプロセスを明確化し、リソースのバランスを取る必要が出てきました。Sそこで横断的な改善やガバナンスを強化するため、Product Ops.の役割が必要となっています。
Product Operations 5つのP
私はProduct Ops.の仕事を5つのPに分解して理解しています。以下の図のようなイメージです。
Problem Solving(課題解決):Product Ops.全体を包括し、プロダクト、プロジェクト、社内プロモーション、プロセスが直面する問題を横断的に発見し、解決する活動です。
Process Management(プロセス管理、ツール管理):Product Ops.の業務を支える基盤です。プロセスやツールを運用し、全体の効率化や安定性を担保します。
Product Insights(プロダクトインサイト提供):プロダクトマネジメントのためのデータや洞察を提供し、意思決定をサポートします。他の業務と連携しながら、具体的なインサイトを導きます。
Project Management(プロジェクト管理):複数のプロジェクトを進行状況を可視化、管理します。
Promotion Alignment(プロモーション調整):営業やCS、サポートに対して、新機能やリリース内容を適切に伝え、共通の理解を促進します。
プロダクトの進化や複雑化、組織の拡大で関わる社員が増えている中、数々の課題があります。このフレームワークのように各所を目配せしながら、プロセスやツールを用いたり関連部署とのコミュニケーションを取り、解決に導きます。
SansanでのProduct Ops.の具体的な業務例
1. Problem Solving(課題解決)の例
各部門間のコミュニケーションを促進し、課題を解決する役割を果たしています。
VPoPは開発側や営業・CSの戦略的な連携を行い、Product Ops.メンバーは営業やCSの現場と連携し、改善活動をしています。具体的には、VPoPがPRDの品質改善を支援し、開発が停滞する課題を解決しています。また、営業やCSがリリース内容を正確に理解できるようにサポートし、顧客対応における問題を解消しています。
2. Process Management(プロセス・ツール管理)の例
プロセスを標準化し、PdMが一貫性のある方法で業務を遂行できるようにします。
例えば、プロセス改善を行うことでNotionを活用してナラティブ文化を徹底し、意思決定の記録や情報共有を効率化しています。Notion AIに質問することで、過去の検討内容を調べる時間が大幅に短縮されました。Notion AIによるPRDのレビューなどが業務に組み込まれています。
3. Product Insights(プロダクトインサイトの提供)の例
プロダクトインサイトは定量的なデータと定性的な情報で構成されています。定量的な分析はデータ分析の専門家が、定性的な情報は営業やCS出身のメンバーがそれぞれ担当しています。
データ分析メンバーが新機能やNSMの分析を担当していますが、プロダクト改善に役立つデータ分析にはまだまだ多くの可能性があります。定性的な情報だと、顧客フィードバックを集計し、優先度の高いものをPdMに提供しています。また、プロジェクトに関連するフィードバックを整理し、スコープや優先順位の検討に役立てています。
さらに、データそのものを提供するだけでなく、PdMが課題探索や仮説検証のために直接ユーザビリティテストを実施できるよう、場を提供しています。
4. Project Management(プロジェクト管理)の例
Product Ops.は「組み込みモデル(Embedded)」と「シェアードサービスモデル(Shared Service)」を併用しています。
組み込みモデルでは、メンバーがプロジェクトマネジャーとして複数のプロジェクトに関与しています。シェアードサービスでは、横断的なプロジェクトの進捗や目標管理を可視化し、全体の調整を支援しています。
5. Promotion Alignment(プロモーション調整)の例
Product Ops.は、営業やCSが新機能を迅速に顧客に案内できるようサポートしています。
テクニカルサポートと連携し、顧客からの問い合わせを毎月レポートにまとめ、PdMに提供しています。
営業やCS向けに新機能の説明会や資料を用意し、理解度を向上させています。これにより、リリース直後に新機能を即日で提案するなど顧客対応のスピードが向上し、顧客フィードバックが開発されたことをすぐに案内するなどして、顧客ロイヤリティを高められたと営業やCSからも好評を得ています。
プロダクトインサイトもプロジェクトマネジメントも社内プロモーションもそれぞれに専門知識が必要です。どれも平行して課題抽出や改善に向き合おうとしましたが、範囲も広くすべてにアウトカムを出せたわけではありません。
営業やCSの経験を持つメンバーが、顧客を深く理解している強みを活かし、社内プロモーションを改善できたことは大きな成果でした。また顧客からのフィードバックをプロダクトマネジメントに活用できた点も良かったと思います。これらのメンバーは少しずつ製品利用データの活用にも取り組み始めています。プロジェクトマネジメントの専門性を持つ人がいなかったため苦戦しました。 プロダクトや組織の課題に対して、Product Ops.メンバーの強みがフィットすると改善がスムーズに進むことを実感しています。
書籍 『Product Operations』を参考に、今後もProduct Ops.を改善していきます。
本書の著者であるメリッサ・ペリ氏は、フォーチュン500企業やSaaS企業のリーダーと協力し、効果的なプロダクト戦略と組織の構築を支援する戦略アドバイザー、著者、ボードメンバーです。プロダクトマネジメントのトレーニング組織であるProdux LabsのCEOを務めており、2018年には業界で高く評価されている著書『Escaping the Build Trap』を執筆しました。共著者のデニス・ティレス氏は、15年以上のプロダクトリーダーシップの経験を持ち、Bloomberg、Sam's Club、Takedaなどの企業と協力し、プロダクトオペレーション、プロダクトマネジメントの成熟度、プロダクト運営モデルの確立を支援しています。
本書は2024年11月20日時点で日本語訳は出版されていません。私の英語力は日常会話レベルですが、事例を示す図も多く、カタカナで聞き慣れたプロダクト用語も多かったため読むことができました。どうしても深く理解したい箇所はChat GPTを利用して翻訳や要約をしながら読みました。
主に3つの柱、「Business Data and Insight (ビジネスデータとインサイト。例えば収益性など)」、「Customer and Market Insight(顧客と市場のインサイト。例えば顧客の声や製品利用データなど)」、 「Creating a Product Operating Model: Process and Practices(プロダクトオペレーションの導入・実践・スケール方法など)」について、Product Ops.のメンバーと共有して理解しています。
私は書籍からProduct Ops.のタスクやデータをリストアップして、SansanのProduct Ops.で、できていること、できていないことをチェックしていきました。特に、製品利用データ、フィードバックのデータからプロダクトの意思決定に導く点はまだまだ伸びしろがあります。次のクォーターは更にアクセルを踏みたいと考えています。
具体的な取り組みは、またの機会に紹介させてください。
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