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NAGI 終刊に寄せて

伊勢の出版社・月兎舎が刊行する、
三重を刺激する大人のローカル誌『NAGI(凪)』
2025年2月末、ついに25年の集大成となる100号が刊行されました。
散策舎・加藤の目線から、NAGI終刊に寄せてのメッセージをお届けします。

なお散策舎ではオープン当初からずっと月兎舎さんの本をお取り扱いさせていただき、NAGI 76号の本屋特集では誌面にも大きく取り上げていただきました。
100号で終わってしまうことはとても寂しいのですが、これからも在庫のあるかぎり、地元・伊勢の本屋として売り続けていこうと思います。
まずは長らくお世話になりましたことを、あらためて御礼申し上げます。


さて、NAGIの刊行がはじまったのは、ちょうど四半世紀前の2000年。今思えば、出版業界の衰退がすでに始まっていたころです。
あのころまだ子供だったぼくにとって、図書館がたくさんの未知の世界に出会える扉だとすると、書店は大人の世界を自分のものにできる場所でした。
文学や歴史、ファッション、飛行機と鳥、建築やデザイン、街歩き…… 今でも好きなカルチャーへの案内人となってくれたのは、間違いなく雑誌でした。
面白い本もつまらない本もあるかもしれないけれど、少なくとも「なるべく確かなものを届けていこう」とする素地がある。それが活字文化というものだと、今も信じています。

一方で、当時はまだサブカル的な存在だったインターネットの世界にも、かなり魅了されてきました。
雑多で荒削りな個人サイトやブログが多かったですが、そのぶん伝わってくる熱量はすごいものでした。掲示板やチャットでの間接的なコミュニケーションもとても愉快でした。
しかしあれから何年も経って、それらの道具は疑惑と分断を生む装置としても使われるようになりました。バーチャルな世界で増幅された刹那的な快楽と、確かさを無視する態度が、今や実世界に多大な影響を及ぼしています。

そんな2025年に、ぼくたちに出来ることは何なのか。
ちょうど昨年ごろ、月兎舎のおふたりから100号でNAGIを終えるつもりだと伺ったとき、実はけっこうなショックを受けました。もちろん書店の経験から紙の雑誌の状況は相当厳しいと知っています。何かできないかと思いながらも正直自分には力不足でした。
でも伊勢には、同じ想いを抱いている仲間がいました。NAGIのように三重県中とまではいかないけれども、自分たちの身の回りからローカルな情報を発信して、伊勢のまちを面白くしていこう。そうして生まれたのが、ぼくも関わっているウェブメディア「PILOT」です。


よく言われることですが、なにごとも「始める」より「続ける」ことのほうがよっぽど難しい。とくに商業誌ともなれば、刊行が続く限り永遠に走り続ける必要があるわけです。
毎回のコンセプトを決めて、集めた情報を編んで、印刷して納品する。またそれを季節ごとに繰り返す。そのすべてを自らの責任で行い、長年にわたって続けるということが、どれほどすごいことか。

本日届いた100号をパラパラとめくったとき、そのひとつひとつの記事に血が通っていること、人々の生活が写真から伝わってくること、雑誌としてはっきりと主張されていること…… 誌面からじんわりと流れ込んでくるさまざまな想いに、あらためて驚かされました。

100号のテーマは「有機的に生きる」。これはNAGIがずっと掲げてきた、ローカルな地域と人間の、「有機的で、普遍的で、持続的」なあり方を探る、という原点に帰るものです。
2025年のいま、この3つの重要性はよりいっそう高まっています。地方の経済や、地方に生きる人々にとっては特に、大切な考え方なのではないでしょうか。


このことから思い出したのは、むかし図書館について学んでいたときに教わった、インドの図書館学者・ランガナタンが提唱した、

図書館は成長する有機体である。
(A library is a growing organism.)

という言葉です。
これは図書館のあり方を示唆する言葉である以上に、雑誌というモノや出版という仕組みも含めた本そのものの本質を表しているように思います。

過去の号をお持ちの方はぜひ、読み返してみてください。そこには実に多彩なテーマで取材された、三重のローカル・カルチャーがあります。何号にもわたって地域の問題を書いた連載もあります。2000年からの25年分、三重のなかでもローカルな部分の歴史が100冊分の本の中にあり、その1冊1冊が読者のみなさんのお手元にある、そのすごさをあらためて感じてみてほしいのです。
NAGIという雑誌はまさに「成長する有機体」であったと、今さらながら思います。紙媒体としての完成度や内容の濃さはもちろん、なによりも雑誌の中から立て続けた波風が、確実に三重のあちこちに伝わってきているからです。

ぼくも散策舎として、またパイロットの一員として。NAGIの想いをしっかりと受け取って、ローカルな人々に光をあて、地域に熱をもたらすような、あらたな有機体になっていきたいと思います。



『NAGI』100号  2025年2月末〜 好評発売中!

県内の方はぜひお近くの書店で、
県外の方は月兎舎の公式ストアからお買い求めください!
一緒に最終号の熱いメッセージを読みましょう〜

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