一本なのか三本なのか、それが問題だ
『いそのなみへい?』
寄せては返す波の音を聞きながら、僕はそんな事を考えていた
『なみへいの漢字って、波平だったけ?』
『髪の毛は一本だっけ?三本だっけ?』
『三本は親族かご先祖様だった気がするな』
『あれ?毛が三本ってオバQじゃなかったかな?』
スマホで調べようとしたが、画面は真っ黒のままだった
習慣は怖ろしい
音を拾い集めるため、スマホを触らないって決めていたのに、いともたやすく法を犯してしまう
しかも無意識に
僕は黒い画面をじっと見つめて、深く反省した
波平とオバQの雑念を払って、両耳に意識を持っていく
また、優しい波の音が聞こえだした
僕は潮騒とひとつになる
もうこの世界を穢すものは何もない
波平はTVの中でカツオを𠮟りつけているのがお似合いだ
オバQは本の中で「寝ない子だれだ?」って探しているのがお似合いだ
あれ?
『あの絵本のモチーフってオバQだったっけ?』
『作者は誰やったっけ?ひらがなだった気がするけど』
僕はまた、黒いデバイスを取り出して右手の親指に力をこめた
法令をひらき「一日三回まで」と加筆した
僕はつぶやいた
「負けるが勝ち」