ある世界の終わりに

「世界は、あと一日で終わってしまう。」

 彼の突然の宣告に私は驚愕した。テレビはそんなことひと言も取り上げてなどいなかったし、今日は雲ひとつない快晴で、世界が終わる様相からはかけ離れ過ぎていた。

 「きみは世界の終わりをまるで、天気予報かなにかの類のようにでも思っているの?」

 彼はそう言いながらけたけた笑う。世界があと一日で終わると言っているような様子にはとても見えない。

 「そうだ、最後の日なのだから、しっかりお別れをしないとね。」

 そう言うと彼は私の手を引っ張り、町の小さな小さな映画館へと私を連れていった。そこで上映されていたものは、信じられないことに、彼と出会ってから今日までの思い出だった。まるで時間旅行でもしているかのような不思議な感覚が私を包む。

 三ヶ月前の友人と喧嘩していたことを相談していた時のシーンに差し掛かったときだった。

 「改めて言うけど。」

 映画館に入ってからひと言も口を開かなかった彼が、スクリーンに顔を向けたまま私に話しかける。

 「君と出逢ってから今日まで、いろんな事があったけど、ぼくは。とても楽しかった。もちろん、苦しいことも、うまくいかなかったこともたくさんあったけどね。」

 彼の声が少し震えていた。

 「ぼくは、とても心配だ。このまま世界が終わってしまうことが。やり残したことがまだまだあるような気がするんだ。」

 最初はふざけていっていると思っていた彼の言葉だったが、このときに差し掛かると少し現実的に思い始めている自分がいた。スクリーンは一週間前の休みのなんでもない日の様子に切り替わっていた。

 「世界がこのまま終わらないで、だらっと続いたら、君は幸せにはなれない。」

 世界が終わっても終わらなくても、私は私のままだ。何も変わるはずはない。

 「君はきっと大丈夫。君が、新しい言葉を覚えたり、 新しい笑顔を覚えたり、 新しい悲しみを覚えたり、 そうやって生きていくその中で、 君が君自身できっと幸せを見つけるから。」

 スクリーンには、スクリーンを見つめる私一人の姿が映る、

 「時間だ。さようなら。そして、新しい君に、おめでとう。」


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