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プロジェクトS 社員FILE001-4「iP-TECのブレイクスルー:自動細胞培養ユニットとの出会い」

念願の新聞記事掲載も経て、順調に滑り出した「iP-TEC」事業。

そこから注目されるきっかけとなった出来事について、お話を伺いました。(企画開発本部 商品開発部エグゼクティブフェローの桑原順一さんより)


1.立体的な細胞製品の輸送テーマにチャレンジ

インタビュアー:
2016年の年が明け、その運送業者様は一体どちらへ連れていってくださったのですか?

桑原:
はい、そこは神戸の理化学研究所多細胞システム形成研究センター(※1)(当時)でした。
打ち合わせ内容は運送業者様とご担当の研究員様で前年から継続されていましたので、経緯や背景の説明はなくて、とにかく同席させていただきました。

それで、薄々感づいていたとはいえ、やはりそうか!と話の途中で確信したわけです、
ここは、患者さんご自身の細胞から作製したiPS細胞を用いた細胞移植の臨床研究を、世界で初めて実施された髙橋政代先生(※2)のラボに間違いない!!と。

インタビュアー:
いきなりトップランナーの研究室に!?

桑原:
そうなんです、身が引き締まる思いでした。
当時髙橋先生のラボでは、iPS細胞から作製した網膜色素上皮(以下、RPE)細胞シートを使って、立体的な細胞製品の輸送方法を確立しようとされていました。そのための新たな容器開発と輸送検証で共同研究をさせていただきました(2016年〜2019年)。

細胞・生体組織輸送用容器
細胞を繊細に保持する軟質容器が液封シールの役目を兼ねる、シンプル構造の密閉容器。
細胞輸送、生体組織/臓器の移植、ポート付き仕様の場合には閉鎖系細胞培養など、展開できる用途が幅広いことが魅力です。(共同出願:国立研究開発法人 理化学研究所)
【特許番号】第6910031号
科学雑誌「Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicine」(2019年)
理化学研究所 生命機能科学研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト(当時、現在は終了)との共同研究で、RPE細胞シートを題材に立体構造を有する細胞製品の輸送方法の開発と検証を行い、この検証結果は2019年科学雑誌に論文掲載され、同誌の表紙を飾りました。

インタビュアー;
最先端の現場と繋がった印象はいかがでしたか?

桑原:
未来を見据えた様々な構想が飛び交っている、という感覚ですね。
研究員の方からは、本題とは違う課題でも本当に色々な勉強をさせていただきました。
例えば〝閉鎖的に簡易に装置を使わずに細胞を培養する〟というお題で、当時アイディア検討をしたものは少し先を行きすぎた(??)かもしれません、いずれ使える日が来ると期待しています。

装置を使わない灌流培養技術
電源、ポンプいらずの超簡易閉鎖系培養ユニット。1ウェルの培地交換スピードを切り替え可能(8時間、24時間など)。回収液のサンプリングも簡単。
【特許番号】第7162226号 灌流システム(共同出願/株式会社:ビジョンケア様)

(※1)理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 
2022年3月に網膜再生医療研究開発プロジェクトは終了

http://www.cdb.riken.jp/

(※2)髙橋政代先生
現在、株式会社ビジョンケア 代表取締役社長

2.閉鎖型灌流培養テーマへの取り組み、iP-TECのブレイクスルー

インタビュアー:
閉鎖的な細胞培養とはどういうものなのですか?

桑原:
細胞を培養する上で、空気中には微量な微生物や菌が存在します。それらの異物が混入することで培養ができないことがあります。そういったリスクを防ぐために、外部からの影響を受けない、閉鎖環境が必要になってくるんです。

〝閉鎖的に細胞を培養したい〟という課題については当時すでに多くのご要望があり、サンプラテックでは市販のウェルプレート(※3)を閉鎖して流路を接続できるアタッチメントを開発していました。
その頃に、とあるポンプメーカーさんと出会ったことが、iP-TECのブレイクスルーに繋がった気がします。
 
インタビュアー:
面白い出会いエピソードがありますか?
 
桑原:
いや~それが、色々な展示会に出展したり訪問したりしていると、いつも顔を合わせてシンパシーを感じる会社、人がいるもので、毎回挨拶するうちに何となくコラボします?っていつの間にか(笑)

市販ウェルプレートでも閉鎖型灌流培養を可能にするアタッチメント
【特許番号】第7219978号
マイクロチューブポンプシステム
マイクロチューブポンプシステムを開発したアイカムス・ラボ社とコラボ。これがきっかけで、iP-TECは容器とポンプシステムをトータルで提供可能なブランドに。
アイカムス・ラボ社は、超小型アクチュエータ技術を有している。

桑原:
iP-TECが容器ブランドの殻を破ったというと少し大げさかもしれませんが、実際に
これがきっかけとなってスケールの大きなプロジェクトにつながっていきました。
 
インタビュアー:
スケールの大きなプロジェクト、ですか?

桑原:
はい。宇宙での再生医療関連実験に採択していただいた時は正直驚きました。
考えてみると、培養容器と流路・培地や廃液の容器が全て閉鎖的な回路でつながり、かつ、その中の流体制御が出来れば、本当に色々な環境の下で実験ができるんです。
この時は、安全性、操作性、限られたスペースといった非常に制約が多い中で目的を果たすための開発力が求められ、本当に鍛えていただきました。

インタビュアー:
まさに殻を破った、というか宇宙に飛んでいったわけですね。

桑原:
はい、宇宙の微小重力空間は、ある意味人間の体内環境に近いと言われ、未来の医療の実験の場として注目されています。それだけに開発テーマが多くありますので当社のチャレンジはまだ続いています。
そして、社会が求める期待度のスケールの大きさで言えば、次の話をしないといけませんね。

インタビュアー:
そんなに社会が期待するお話なんですか?

桑原:
はい、もうMAXです(笑)

(※3)ウェルプレート
一度に複数の検体の反応や分析を同一環境下で行えるプレート

宇宙にまで広がった開発事業。
次回、これからの再生医療についての革新的な技術参入に加わることとなる、最終章へつづく。


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