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パイロットキャップレス万年筆と私
高校生の頃から万年筆が好きで、今の今までずっと使い続けている。若い頃、当時は珍しかった海外旅行とやらに行ったオヤジが、大奮発した土産でくれたパーカー75を皮きりに、しばらくはパーカーを使っていたが、最近はパイロットキャップレス万年筆を使っている。2本目となる今のマットブラックは使い始めて8年ほどになる。
で、最近になって気づいたことがある。書いた後のインクの乾きが悪いのか、書き始めてしばらくは濃い(こゆい)インクがドバドバと出て、結果、書いた端から指で擦れてしまい、ノートの紙面を汚してしまうのだ。ティッシュであわてて拭くが余計に汚してしまう。女が口のものをティッシュに出しながら「うふふ、いっぱい出たね」というイメージなのである。違うか。万年筆を何十年と使っていて、おいおい今更かよって話なのだが、万年筆の特性上、書き始めはインクが濃いのは重々承知しているけれど、それにしてもなんだか最近ドバドバが顕著になってきた気がして、これにはちょっとだけイラッとする。ペン先が中字(M)だというのも要因のひとつとして挙げられる。これを機に新しい細字(F)ペン先に変えたいのだが、キャップレスの軸に仕込まれている、取説によれば筆記体とカートリッジカバーというらしいが、その一式だけの交換が可能なのか。はたまた亭主留守がちの、どちらかの可愛い奥様が「ちくわさん、ずっと好きです。これ、どうぞお使いください」などとプレゼントしてくれる幸運が来るのか来ないのか。まあカネがないわけじゃあないので、さっさと自分で買えよ、て話なのだが。
さて、先日の夜、このキャップレス万年筆についてnoteで検索をかけてみると、何人かの文具好きエッセイストがその偏愛ぶりを書かれていて、うんうんそうそう、と首肯しながら、興味深く読んだ。中でもゆうこさんというエッセイストが書いている、飛行機に持ち込む際の注意点を示した記事が興味深かった。
私は生来より家にじっとしているのが苦手で、無類の旅好き出好きな性分。なので、このパイロットキャップレスと、日記代わりに使っている野口悠紀雄先生考案「超整理手帳」、それともうひとつ、軽量ノートパソコンを持って、ちょいちょい旅に出ている。国内国際併せて40回弱、飛行機を利用した旅行をしてきたけれど、正直言ってインクの漏れに関して、今まで一切気にしたことはなかった。パーカー、パイロットともに、国内線では何のトラブルもなく、旅先のホテルでも、夜になるとこつこつと日記を書いている。
ただ、問題は国際線。過去に都合2回、訪問先の国際空港入管で詳密検査を受けた経験がある。
まあ一回は軽量ノートパソコン。そのあまりの軽さに、中抜きをしてクスリでも詰め込んでいるんじゃないかと思われたようで、ジロジロ見られた後に、検査薬をパソコンのフチ周りに塗られたことがある。
もう一回はこのキャップレス万年筆。入管係員が日記帳に挟んだこのペンを見つけ、持って不思議そうに見ている。これも中に何か仕組まれていると嫌疑かけられたよう。
「おい、パソコンじゃなくてそっちかい!」
私がキャップレスのノックを実演しようとして手を伸ばした途端、厳しく「dont touch!」と係員に怒られてしまった。this is water ink pen とか言って許してもらえたけれど、これには参りましたね。ゆうこさんにキャップレス実例その2として報告したい(笑)。
そんな細字ペン先希望の、悶々とした冬の日。外を見ると乾いた細かい雪が降っている。外気温は-5℃。
命あらばまた他日。元気で行かう。絶望するな。では、失敬。
(見出し写真は、私の机の上。太宰治「津軽」をノート取りながら再読中。)