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夏の清掃センターは悲しからずや

いや何とも中原中也に申し訳ない記事タイトルなのだが、ある初夏の土曜日午前、市の運営する清掃センターに粗大ゴミを捨てに行った。その特異な建物を見ての帰途、私の脳裏に浮かんできたのは、まさにこのフレーズなのである。
「夏の清掃センターは悲しからずや」
うーん(-_- )

片づけ

野遊び道具を買いまくった結果、とうとう我が家の物置に入り切らなくなって、とても困った、とっても弱った、さてどうしたものか、なんとかせねば、と相成った次第。
勢いで買ったツールーム(2room )テントをとりあえず居間に置き、その梱包サイズの大きさに呆れながら、それを何とか物置に入れなくてはと、私は途方に暮れてしまった。
季節は梅雨真っ只中である。暫くは外遊びもできない。そこで私は意を決して物置を整理し断捨離を決行する事にした。
実は数年前に死んだ年寄りの、それも昭和に着ていた着物を納めたタンスが二つあって、妻と重々話し合った結果、それらをこの際、処分、といっては良くない、片付ける、事にした。もちろんばあさんの思いでの詰まったいくばくかの物は保管し、一方で着物だけでなく、私が若い頃夢中になったアマチュア無線機数台、嫁がやりもしないのに買い集めた洋菓子作りセット、子供が買いまくったマンガ本も併せて処分する事としたのである。つまり家族全員がある程度の痛み分けを受ける事で、ばあさんの着物を片付ける罪意識を、多少和らげられるのではないか、そんな事も妻と話し合った。

さて、なんやかんやで片付けも終わり、物置からは古い桐のタンス、衣装ケースなどを庭に運び出した。そうして次の土曜日、いよいよこれを粗大ゴミとして市の運営する処理施設へ搬入するこことした。

清掃センター

当日の朝、タンスを車に載せて清掃センターに赴くと、すでにそこには家の粗大ゴミを無理やり詰め込んだ自家用車が長い列を作っていたのである。
その最後尾に車を停めて、おそらくは私と同じように家で持て余した挙げ句、意を決して車に詰め込み、こうして捨てに来たであろう市民たちを見て、私はなぜか、うーん、と考え込んでしまったのである。
なんだか人間が生活することの無意味さみたいなもの、つまりは消費生活の果て、と言ったらよいのか、つまり買っては捨て、捨ててはまた買う、その繰り返しを如実に見せている目前の有様。
文明人と言われる私達の、買っては捨てて捨ててはまた買い足すという、欲しくてたまらずに買うのに、直に飽きたり不必要になって置き場所に困り、こうしてゴミを増やしていくという、埒もない営みを繰り返している様子に、なんだか辟易としてしまった。
私がもし知恵を授かった一羽のカラスだとしたら、電柱の上からこの飽食の様を俯瞰しては、物を大切に使わないこいつら、ほんまにバカじゃね?とばかり、アホーアホーと大きな声で鳴いてみたいとまで思ったのである。
こうして清掃センターに、私も含めたずらりと何十台と並ぶ自家用車の列、正にカラスではなくカオス!

捨てる

とは言え私もここまで来て捨てないわけにも行かない。係員の指示に従い大きな建屋に向かった。すると建屋入り口の大きなシャッターがパサーッと開く。指定された場所まで行ってタンスを捨て、そうしてまた出口へ向かうとまたシャッターがパサッーッと開いて、はいお疲れさん。
終わった。

さて、捨てたタンスにばあさんの思いでを被せてうるうるしている、そんなスキはない。土曜日からかも知れないが、あとからあとからと、業者とともに一般市民が来ては粗大ゴミを放り投げて帰って行く。
そうしてあのシャッターの中に漂う生臭い独特の匂いが、ばあさんの仄かな思いでもかき消してしまっていた。
人が営みのあとに出す悪臭は、逆に考えれば、人はいかに臭い汚物を日々、排泄、排出して生きていかなくてはならないのか、と言うことになる。ただ街の隅の隔離されたこんな場所に閉じこめてしまっているだけなのだ。なんと言う事だ。人間は臭い!ただひたすら隠しているだけだ。
清掃センターからの帰り途、がらんとした後ろ席を見ながら車の中で私は深く考え込んでしまった。そうしてぐったりとして、だるーくなってしまった。
マジだりぃっす!

お炊き上げ

着物タンスの底には同じ桐で出来ている台枠があって、ちょうどその台枠の上にタンスが乗っているのだけど、私はその台枠を捨てずにとっておいた。
清掃センターにいった翌週は、気持ちもすっきり晴れやか、大好きなキャンプである。いつもながら焚き火やたき火料理を楽しむのが私達夫婦の楽しみなのだが、私はあることを思いついたのである。
そう、残しておいたタンスの台枠を焚き火のはじめに「お炊き上げ」するべ!と考えたのだ。嫁さんもそれには大賛成してくれた。

ご覧あれ!
その実際の絵が見出し写真というわけだ。妻は慎ましく手を合わせている。果たして煙はばあさんの住む天国まで届いただろうか?
なむなむー!