民事再生を選択する場面(その2)【中小企業の自主再建型民事再生】
今回は、「民事再生手続きを選択するに至るまで」の第2回です。
前回は、「債務整理を検討するきっかけ」、「清算型と再建型のどちらを選択するか」について解説をしました。
復習をすると、まず、債務整理を検討するきっかけとしては、
① リスケ後1年経過しても約定弁済に復帰できない場合
② 資金ショートが身近に迫っている場合
③ 取引業者への弁済が遅延し、弁済目途が立たず、取り立て対応により事業に多大な損失が発生している場合
を挙げることができる、ということでした。
次に、清算型と再建型のいずれを選択するかのメルクマールとしては、
① 営業キャッシュフローがプラスであるか、または今後改善する見込みがあるか
② 全部または一部の債務の弁済を停止することにより、当面の資金繰りがあるか
③ 経営者・後継者に事業再建の意欲・覚悟・能力があるか
を挙げることができる、ということでした。
今回は、
・(再建型の手続きを取るとして)裁判所を通すか通さないか
・(その前提として)裁判所を通さない再建型の手続きとしてどのようなものがあるか
という点について解説をします。
1 再建型私的整理の概要
破産、民事再生、会社更生等の法的倒産手続によることなく、債務の整理をすることを私的整理と呼びます。
私的整理にも、事業を消滅させる清算型と、事業を継続させる再建型とがあります。
また、私的整理には、公表されている準則に基づいて進められる私的整理(準則型私的整理)もあれば、準則に基づかないで、適宜の方法で行われる私的整理(純粋私的整理)もあります。
再建型の私的整理として、以下のようなものが挙げられます。
① 「私的整理に関するガイドライン」
2001年9月に私的整理に関するガイドライン研究会によって策定され、公表された準則です。金融界の紳士協定として、金融機関によって遵守されているガイドラインです。
② 事業再生ADR(裁判外紛争解決手段)
事業再生実務家協会が特定認証紛争解決事業者として手続きを受理し、利害関係のない弁護士・公認会計士等の専門家が手続実施者として手続きの進行を担う準則型私的整理です。
③ 中小企業再生支援協議会
中小企業再生支援協議会は、中小企業の再生支援業務を行うものとして認定を受けた組織で、全国の都道府県の商工会議所等に設置されています。
手続的負担や費用の面について、中小企業の特性に配慮した手続きが行われています。
以下の記事でもご紹介した組織です。
④ 地域経済活性化支援機構(REVIC)
金融機関・地方公共団体等と連携しつつ、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中小企業者その他の事業者に対して、金融機関等が有する債権の買取その他の業務を通じた当該事業者の事業の再生を支援し、地域経済の活性化に資する活動を行うことを目的として設立された株式会社です。
⑤ 特定調停
特定調停法に基づき、裁判所にて行われる私的整理手続です。
一部の債権者が同意しない場合には、民事調停法17条に基づく「調停に代わる決定」がなされる場合もあります。
⑥ 純粋私的整理
準則に基づかず、適宜の方法で行われる私的整理です。
対象債権者の範囲、手続の進行、再建計画の内容等について柔軟に取り組むことができることがメリットです。
再建型の私的整理としては、以上のようなものが挙げられます。
私的整理の詳細については、いずれまたご紹介できればと考えています。
2 私的整理によるべきか民事再生によるべきか
私的整理のメリットとして、
① 対象債権者を金融債権者に限定することにより、商取引債権者を保護し事業価値の毀損を防ぐことができること
② 特に準則型私的整理においては、対象債権者に詳細な情報が開示され、手続きの透明性・公正性に配慮した手続きとなっていること
などが挙げられます。
また、法的整理のデメリットとして、
① 倒産手続が開始されると、手続の開始決定までに発生した債務について一律に弁済禁止の効力が及び、仕入先や外注先等すべての債権者に対する債務の弁済を停止することになること
② その結果、仕入先や外注先等との間の継続的取引が困難となり、事業価値が毀損される恐れがあること
③ 全ての債権者に対して倒産手続が開始されたことが通知されるなどにより、「倒産」のレッテルを貼られ、信用不安が発生すること
などが挙げられます。
このような私的整理のメリットや法的整理のデメリットを踏まえると、私的整理を選択することができる場合には、できる限り法的整理の利用を避け、私的整理の利用を検討すべきと言われています。
しかし、私的整理の限界として、
① 対象債権者の中に、再建計画に同意しない債権者がいれば私的整理は不成立となってしまうこと
② 特に債務免除(債権カット)を含む再建計画を提示する場合には、債権者の同意を得ることが容易でない場合があること
③ 手形の不渡りが目前に迫っていて資金調達を行う時間的余裕がない場合や、金融債務の弁済猶予を得るのみでは資金繰りを改善することが困難な場合には、抜本的な解決に至らないこと
などが挙げられます。
そのため、これらの限界を踏まえて、私的整理の利用が不可能・困難な場合には、法的整理による事業再生を検討することになります。
3 今回のまとめ
以上のように、私的整理には準則型私的整理と純粋私的整理とがあり、準則型私的整理には多くの手続きが用意されています。
そして、原則としては法的整理によるのではなく私的整理による事業再生を目指すべきですが、私的整理にも限界があり、私的整理の限界を踏まえて私的整理の利用が不可能・困難である場合には、法的整理による事業再生を検討することになります。
今回は以上です。
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記事をご覧いただきありがとうございました。
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