申立ての前段階の注意点【住宅資金特別条項付き個人再生②】
以前の記事でご紹介したように、住宅ローンを負っているものの自宅は手放したくない、という債務者の場合には、住宅資金特別条項(住特条項)を利用した個人再生手続を取ることにより、自宅を手放さずに、住宅ローンなどを除いた債務の圧縮を図ることができます。
個人再生手続は、①裁判所への申立て→②再生手続開始決定→③再生計画案の作成・提出→④付議決定・意見聴取決定→⑤認可決定という順番で進んでいきます。
今回は、裁判所に申し立てる前の段階での留意点について解説をします。
1 受任通知発送時の注意点
⑴ 抵当権が実行されないようにするために
債務者が弁護士に個人再生などの債務整理を依頼すると、弁護士は最初に、各債権者に対して、受任通知(弁護士が債務者の代理人となって、債務整理を行うことを各債権者に知らせる通知)を送付します。
弁護士がこの受任通知を各債権者に送付すると、貸金業者やサービサーが債務者に対して直接取り立てを行うことが禁止されます。これによって得られる安心感は、依頼者にとって大きなメリットになります。
また、弁護士が受任通知を各債権者に送付すると、債務者が有していた期限の利益(一定の期限が到来するまで弁済をしなくて良い、とされることにより得られる利益)が失われ、一括払いを求められるようになるのが通常です。
そして、住宅ローンについて期限の利益が失われると、自宅は抵当権が実行されて競売されてしまうのが通常です。
しかし、自宅を手放さないように住特条項付き個人再生を行うのに、受任通知を発送することによって競売にかけられてしまうと意味がありません。
そのため、住宅ローン債権者に受任通知を発送するときには、受任通知に「住宅資金特別条項を定めた再生計画案を作成する予定である」旨記載して、抵当権が実行されないようにする必要があります。
⑵ 再生計画案作成についての協議・協力依頼
のちに述べるように、住特条項を定めた再生計画案を提出する場合、予め住宅ローン債権者と事前協議をする必要があります。
そのため、そのきっかけとなるよう、受任通知に「再生計画案の作成についての協議・協力の依頼」を記載するべきとされています。
2 住宅ローン債権者との事前協議
⑴ 住特条項で可能な内容
住特条項付き個人再生は、住宅ローンについて期限の利益を喪失していない場合に限り利用できる手続きではありません。どのような手段でも自由に選択できるわけではありません(所定の要件を満たす必要があります)が、例えば、
・住宅ローンの期限の利益を回復させる一方、それまでの滞納分は、他の再生債権とともに一般弁済期間内に分割で弁済する
・返済期間を延長して月々の返済額を少なくし(リスケジュール)、それまでの滞納分は、各月の返済に加算して支払う。
・返済期限を延長した上で、他の再生債権への弁済が必要な一般弁済期間中は、住宅ローンの元本の一部とその期間中の約定利息のみを支払い(元本猶予期間)、元本猶予期間後に残元本・利息・遅延損害金を支払う。
などの条項を設けることが可能です。
また、住宅ローンを滞納した結果、保証会社が代位弁済をした場合であっても、一定の要件を満たせば、「巻戻し」をして、代位弁済が無かったものとして扱われることができます。
このように、住特条項は、住宅ローン債務者の再建のため、様々な制度を設けています。
⑵ 事前協議すべき点
他方で、リスケジュールや元本猶予をするにしても、リスケジュール後の住宅ローンの支払い内容(毎月の元本・利息・遅延損害金の支払額など)を決定するためには、住宅ローン債権者の協力が不可欠です。
また、抵当権の実行を避けるためには、住宅ローン債権者と十分に協議し、今後返済を継続できることなどを十分に説明し、理解してもらう必要があります。
そのため、民事再生規則101条1項では、次のように住宅ローン債権者と事前協議をする必要があると定められています。
(事前協議・法第二百条)
第百一条 再生債務者は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する場合には、あらかじめ、当該住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者と協議するものとする。
2 前項の場合には、住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者は、当該住宅資金特別条項の立案について、必要な助言をするものとする。
具体的には、住宅ローン債権者と次のようなことを事前協議する必要があるでしょう。
・予定している住特条項の内容(リスケジュール後の返済内容のアウトライン)
・リスケジュール案の作成依頼
予定している住特条項の内容について理解を得たら、リスケジュール案は住宅ローン債権者に作成してもらいましょう。再生債務者側個人で計算することは極めて困難であると思います。
弁護士に依頼している場合には、どのような内容であれば住宅ローンの返済が可能であるのか弁護士とよく相談した上、弁護士を通して住宅ローン債権者と事前協議を行いましょう。
今回は以上です。
記事をご覧いただきありがとうございました。
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