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【相続・保険】死亡保険金は特別受益に当たるか

 被相続人(亡くなった方)が、複数いる相続人のうちの特定の相続人を保険金受取人として、多額の生命保険に加入していることがあります。
 例えば、特定の相続人に事業承継をするときに、納税資金を確保させるために、このようなことをすることがあります。

 他方で、死亡保険金を受領できなかった相続人は、不満を抱えるでしょう。

 このような場合、他の相続人は遺産分割をするときに何かしらの権利主張をすることができないのでしょうか

1 遺産分割において話し合うべきトピック

 遺産分割では、

 ① 相続人の範囲の確定

 ② 遺産の範囲

 ③ 遺産の評価

 ④ 具体的相続分の算定

 ⑤ 遺産の分割方法

という順に検討をしていきます。

 詳しくは、こちらの記事もご覧ください。

 まず、この記事でも触れていますが、通常、死亡保険金は、遺産の範囲(②のトピック)には含まれません

 死亡保険金は、保険契約に基づいて保険金受取人が取得する、保険金受取人固有の財産と考えられているためです。

2 死亡保険金は特別受益に該当するか

 ⑴ 特別受益の効果=持戻し

 では、次に、死亡保険金は特別受益に該当するから持ち戻すべきだと主張することはできないでしょうかトピック④の具体的相続分の算定の問題です。)。

 ちなみに、民法903条1項は、特別受益による持戻しに関し、次のように定めています。

(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 ⑵ 最高裁の考え

 この問題について、最高裁平成16年10月29日決定は、次のように判示しています。

 被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる

 もしよければ、裁判所のホームページもご覧ください。

 ⑶ 最高裁の考え方の要約

  【原則】持戻しの対象にならない

 理由として、死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被保険者が生前保険会社に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することが挙げられています。

  【例外】持戻しの対象になることがある

 もっとも、この原則を常に貫こうとすると、極端な場合、被相続人が手持ちの財産をすべて換金して保険料として支払ってしまい、特定の相続人のみに死亡保険金を受け取らせる、ということが可能となってしまいます。

 そこで、


保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合

には例外的に持戻しの対象になる、とされています。

 ⑷ まとめ

 以上のように、死亡保険金の受取人となっていない相続人が持戻しの主張をすることは、例外的な事情がない限り難しいようです。

 これは反面、特定の相続人に事業承継をする場合などに、死亡保険金の受取人をその相続人としておくことが有効な相続対策になることを示しています。


 今回の記事は以上です。
 記事をご覧いただきありがとうございました。

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