いなくなくならなくならないでを読んで
なんか読書感想文のタイトルみたいになっちゃいました(笑)
どうもこんにちは、sanoです。
この本は私の好きなポインティさんがラジオかなにかでおすすめしていて図書館にあったので読んじゃいました。
3日間で成瀬は天下を取りにいくといなくなくならなくならないでの2冊を読破しました。
この本は芥川賞候補作って感じで、なん心がざわざわしちゃうような話でした。中高生の頃はこのざわざわが気持ち悪くて最後まで読めなかったり、面白いと思って読めなかったりしたのですが、近ごろはこの気持ち悪さも楽しめるようになってきました。
芥川賞候補作?受賞作ならコンビニ人間も読みました。あの作品もすごく気持ち悪くてよかったです。(誉め言葉です)
大人になると苦手なものが減ってきますがその一つで好きになれたのでしょうか?楽しめるものが増えるっていいですね。
さて、作品についてです。
本の帯についている紹介文をそのまま引用させていただくと
「わたしというものは、いなかったらばそっちのほうがよかったな」(本文より)
死んだはずの親友・朝日からかかってきた一本の電話。時子はずっと会いたかった彼女との再会を喜ぶが、「住所ない」と話す朝日を自宅に招くと、いつしか家に住み着いてーーー。
です。
時間なかったので、選んだ時に帯まで読んでたわけではないのですが、「初小説にして芥川賞候補作」というのは引きが強かったです。
私がなぜ気持ち悪いと思っていたのか自分で考察していきたいと思います。
まず、死んでいたはずの朝日がいきなり4年ぶりに現れたのに、いなくなることを恐れて時子は空白の期間について何も聞きません。この作品は時子視点で描かれるので、幽霊かもしれないという疑問を抱えたまま進んでいきます。
家庭に恵まれた時子といわゆる毒親育ちの朝日という正反対の二人という位置づけになっています。時子は自身の境遇に悩んでいる朝日に共感を示す一方で、立場の違いから完全に共感することはできず悲劇のヒロインという主役になれる朝日のことをうらやんでいました。
しかし、物語が進むにつれて時子がいたサークルや家族のコミュニティに違和感なく溶け込んでいく朝日も時子をうらやんでいたとも思いました。
正反対の二人として描かれていたはずがいつの間にか二人の関係性が入れ替わってしまうのではないかというハラハラもあります。
そして二人の関係性もなんだか気持ち悪かったです。
二人の関係性が入れ替わるというよりも、二人の境界線がなくなって溶け合ってしまうのではないかというような危うささえ感じました。
入れ替わるのではないかと思った際に限りなく二人が近づいたように感じたからでしょうか?私もよくわからないのですが(笑)
また、死者を美しい記憶のまま閉じ込めて自分にとっての都合のいい存在にしてしまうことにも恐ろしさを感じました。
ある意味、親友の死(失踪)で時子が憧れていた悲劇のヒロインになることができ、朝日は死んでいたと思われていたおかげで時子がいたあたたかな家庭に迎合することができたわけです。
そして空白の期間は時子は朝日を神格化していました。神格化というか人間離れした人間というか壮絶な過去を持った悲劇のヒロインであり普通の人間ではない、というよりそうあっては嫌だと時子は感じていました。
そのため時子は朝日に聞くことができないことが募っていき、精神的な繋がりを求めているはずなのにそれも叶うこともなく、逆に肉体的に繋がりを持ったり。
私の読み込みというか理解力のなさが露呈するので恥ずかしいですね(笑)
書きながら思った気持ち悪さは生々しいほどの人間らしさから起因するものかなと思いました。人間の三大欲求だけでなく嫉妬や憎悪や愛おしさや孤独を目の前に感じるほどの熱をもって差し出されることで気持ち悪いと感じてしまうのかもしれないです。
その生々しさを美しい表現で描き出されるので、一生懸命文字を追ってしまうんですよね~。
作者の向坂くじらさんは詩やエッセイも手掛けているので表現がきれいで、それもすごく魅力的な作品でした。
いなくなくならなくならないでというタイトルも愛おしさと嫉妬と憎悪と執着と物語が進むうちに揺れ動く様を表現しているという考察を見て、すごく良いタイトルだと思いました。
また、朝日が死んだ喪失感をスプーンで一口掬ったプリンみたいに心が欠けてしまったというように表現していて、そこが好きでした(正確な表現じゃないですすみません)
幸せの象徴ともいえるようなプリンで喪失感の比喩表現に使うのは、すごく皮肉で素敵だし、このプリンを食べちゃったのは一体誰?プリンは掬っても形を保ったままだから精神状態は正常だな。幸せを感じる心が少なくなっちゃっただけかな?それとも幸せを分け与えたい人の一口分が無くなっちゃっただけかななんて色々考えることもできます。
こうやって文字に書きだしていくとどんどん作品について考えていくのが楽しくて増えてきて楽しいですね!
やっぱり文字にするのは大事なことだなと実感中です。
他のクリエイターさんの考察?も読んで、みなさんそれぞれ違った解釈でこの作品を楽しんでいてすごく楽しく読ませていただきました!
ポインティさん、素敵な本にめぐり合わせてくれたことに感謝します。