舞台『兎狩りC200の闘劇視察』を終えて
「舞台やってみない?」
マネージャーから打診を受けたのはイベント帰りの車の中でした。
人生に起こる意外な出来事とは、常に唐突に訪れるものです。
演劇に縁もゆかりもない私が小劇場の舞台を踏むことになった理由は特になく、本当に突然のことでした。
舞台『兎狩りC200の闘劇視察』は、2022年の年末に上演された舞台『兎小屋 B100の経過観察』を前身とするバニーガールを主軸とした舞台です。
何故バニーガールが主軸なのか。
それは、この舞台を手掛けるSIGNAL WORKSの代表兼プロデューサーの個人的な趣向です。「バニーガールが好き」ただそれだけです。
一見するとなんかアホっぽいですがこの「好き」を貫く姿勢というのはなかなか馬鹿にできないものだと、私は改めて思いました。
自分が愛しているもの、心躍るものを本気で大切にし心から楽しむことが出来る人。そういう人は得てしてマニアとかオタクとか呼ばれて嘲笑の的になることもしばしば。
そのせいで積極的に好きだと明かせなかったり、狭いコミュニティに籠ったりしがちですが、そうではなく積極的に「ね!これいいでしょ!」「どう?これ素敵だよね!」と発信していく様子は、たとえそれに興味がない人が見たとしてもとてもポジティブな気分にさせてくれます。
自分の好きなものを肯定される、相手の好きなものを肯定する、このような営みは実に平和で舞台期間中はとても和やかで互いを認め合うようなあたたかい世界が溢れていました。
お互いを認め合うあたたかい世界。
それは本舞台『兎狩りC200の闘劇視察』の隠されたテーマでもあります。
あらすじ
この世界にはウサギとヒトが存在します。
野生のウサギは日々特に何もせず自然の中でダラダラ過ごします。
しかしひとたびヒトに捕まってしまうとお屋敷に連れていかれ、バニーガールとして給仕や奉仕を強制させられてしまいます。
時には人とセックスさせられることも…
ヒトにとってウサギは寂しがり屋でセックスが大好きな動物。
しかし極度の恥ずかしがり屋であるウサギにとってそれは耐えがたき苦痛なのでした。
そんな支配の日々から逃れる方法はたったひとつ。
それは、バニーファイトに出場すること。
バニーファイトの勝者は次の勝者が決まるまでの間、バニーガールとしての業務から解放され野生時代のように自由でダラダラとした暮らしができるのです。
そしてこの世界の圧倒的勝者であり常勝無敗の最強ウサギピネルは、新入りのラピをこき使い自分は全く働きません。
ラピと共にヒトに捕まってしまったモルは別の屋敷でバニーファイト負け続けの先輩のアメリや、メイド長のチャロのもと働くことに。
バニーファイトは二人一組で戦うタッグマッチ。
モルとアメリ VS ラピとピネルの戦い
そしてチャロの悲しい過去。
5匹のウサギのそれぞれの葛藤。
バニーファイトとは名ばかりの所詮はヒトの娯楽にすぎない見世物のゲーム。そして羞恥や支配で見えなくなっていたバニーガールの美しさ。
主人公モルはバニーファイトをきっかけにバニーガールが最高に輝く瞬間を見つけ出します。
バニースーツは手足が激しく露出し谷間も見えて破廉恥。しかし完璧な美しいポージングや振る舞いを行えば、それは美しさをより際立たせる最高の衣装にも成りえます。
最初は欲望のまま野次を飛ばしていた観客でさえ、その美しさに息を飲み見惚れます。
その瞬間、この世界はある種のあたたかさに包まれるのです。
支配する者と支配される者の隔たりが消えた世界。
欲望のはけ口としてでは無くひとりのウサギとして個性が輝く世界。
性的なものをエンターテイメントへと昇華する世界。
そして魅せる者も観る者も互いに尊重し合う世界。
このあらすじに現代社会のメタファーを感じたならそれは偶然ではないかもしれません。
初舞台への挑戦
私は舞台をやったことがありませんでした。
見たこともほとんどなく、小劇場での演劇は一度も見たことがありません。
なので演劇の基本は一切知りませんし舞台が終わった今も知りません。
稽古期間は約2週間。
短い準備期間にも関わらず出演者全員が揃う日も少なく、実際の稽古期間よりももっと少ない時間で全てを仕上げなければなりませんでした。
演劇の基本を教わる時間も習得する時間も無い。
そんな中私たちが目標にしたのは「なにはともあれ形にする事」
当然にこの一点でした。
稽古期間が始まる前に仮のイメージポスターの撮影をして宣伝を開始し、本番用バニースーツの採寸と発注。
本番用衣装でのポスターを再撮影し、グッズ用のイメージ写真なども撮りつつ台本が完成しつつ。稽古期間に入る前から様々な動きがあり舞台ってこうやって作られていくんだなぁと興味深かったです。
稽古期間がはじまると出演者はもちろん、演出家の方や舞台の裏側で動いてくださるスタッフの方たちとそれなりに長い時間一緒に居る事になります。
ひとりひとりについて書くと長くなってしまうので割愛しますが、とにかく人間関係がすごく滑らかでした。
全員が大人というか、精神的に安定している方が多くて本番期間中もずっと和やかな雰囲気が続きました。
一番わがままだったのは私だったんじゃないかと思うくらいです。
だからこの舞台の思い出はどれもいいものばかりで、辛かった事は何もなかったです。
本当にやってよかったなと思います。
小劇場の舞台とは
「基本的には、芝居なんてものは観たい時に観られればそれ以上に損も得も無い」というプロデューサーの何気ない呟きの一文ですが、私は何となくこれが舞台演劇の本質なのかなと思いました。
劇団四季やシルクドソレイユなど有名な劇団ではロングラン公演を行いますし、宝塚歌劇団や吉本新喜劇などには根強いファンがいます。
経営戦略はもちろん長く劇団を運営することで次の公演への資金を作る事も出来ます。
それにくらべて小劇場はそういったマネタイズが難しい業態です。
チケットやグッズが売れるタイミングでしか利益は確定せず、そこから人件費、会場費、衣装代、美術費用等々を回収して黒字になれば企画者に利益が出るわけです。
厳しいのは演者も同じで稽古期間などに相当の時間を取られても稼働時間そのものに時給は発生しません。
私たちはAV女優という本業がありますし各々グッズ利益も還元されますし何より舞台の出演経験というのはそれだけで価値があるものです。
ただし舞台俳優一本で食べていくとなると、かなり難しでしょう。
しかし、それでも人は演劇を辞めません。なぜか。
それはやりたいからです。好きだからです。演劇が、芝居が、舞台が好きだから。そうやって好きな事をしている時間があるという事が人生にとってどれほど豊かなことでしょうか。
「芝居なんてものは観たい時に観られれば良い」
これは投げやりなようでそうでないと私は思います。
「儲からないから誰も見ないから思うようにできないから演劇辞めた」って人ばっかりだったら今この世に演劇も小劇場も存在していません。
そうはならずに今日もどこかで小劇場が開場しているのは正にそれが芸術である証だと思います。
絵描きは誰に言われなくても絵を描き続けますし
音楽家は誰に言われなくても音を奏で続けます
おそらく演劇もそのようなものなのだと
私は今回の経験で気が付きました。
お芝居が好きな人は誰が見なくても演じるのでしょうし
脚本を書きたい人はずっと物語を書き続けるんだと思います。
そういう芸術家達が好き好きに楽しんでいる世界が持続される限り、誰かが芝居を観たいと思った時にふとそこに舞台があるのだと思います。
絵を見たいと思い立ったとき美術館がいつでも開いていて、特別展示がどこかで行われているのは当たり前のようですが実はすごく豊かなことですよね。「芝居が観たい時に観られる」こともそれと同じ事なのではないでしょうか。
芝居や舞台は本質的には「どうぞぜひ観てください。見なきゃ損ですよ」ってものじゃなく。「観たかったらどうぞ、いつでも来てください」というような寛容な在り方をしているのではないでしょうか。
劇を見るというと少し敷居が高い気がしますが
私たちが気付かないだけで実は生活のすぐそばに演劇はあるのかもしれません。
最後に
この舞台はVoyantrope(ヴァイヤントループ)という劇団のメンバーが多く携わって作り上げられました。
それぞれの個性にあったキャラクター設定が見事にはまり、誰が見ても納得のいく素晴らしい登場人物のバランスがあったおかげで
未熟な私たちでも見に来てくださったお客様に楽しんでいただける舞台にすることが出来ました。加えてなかなか演者が揃わない短い稽古期間の中で、とにかく前に進んでいけるように私たちを導いてもくださりました脚本家兼演出家の宇野さんありがとうございました。
他の劇団員の方や舞台監督さんや物販のお手伝いをしてくださった方々やバニーガール講師の先生など、この舞台には見えないところにも沢山の方が関わっています。大変に心強い仲間でした。ありがとうございました。
そして千秋楽まで誰も欠ける事なく共に舞台期間を駆け抜けた共演者の皆さん。
最高にエロくて可愛くて賢くて優しくて、毎日眼福でした。
特にピネル役の七瀬アリスさんに罵倒される演出はただのご褒美でした。
劇団Voyantropeの舞台をとても見に行きたくなりました。
次回の公演を楽しみにしています。
舞台『兎狩りC200の闘劇視察』を観劇してくださった皆様、改めましてありがとうございました。
沢山の応援と期待そして緊張も共にしてくださったファンの皆様、いつも支えてくれてありがとうございます。
舞台という大きな仕事を頂けたのも皆さんの応援のおかげです。
これからも活躍を期待していただけるように引き続き頑張ってまいります!
最後までお読みいただきありがとうございました。
あなたの最初で最後の推しになりたい、三宮つばきでした!
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