「戯れ言」 耳
あれは確か二十歳の夏の終わりだった。
今ほど暑くはないが、じっとりとした寝苦しい夜だった。
シングルベッドの足元で回している扇風機が、ヒューヒュー忙しそうな音を立てていた。私が使っている六畳の洋室は実家の庭に新しく建てた離れの一室で、まだエアコンは付いていなかった。
それでも当時は深夜になれば昼間の暑さも和らぐし若さも手伝って、いつもは熟睡出来ていた。
あの日、慣れないお酒を飲んだせいか私は早くに眠りに落ちた。
「〇〇ちゃん、〇〇ちゃん」
深夜零時を回った頃だろうか。
耳元に吹きかけられる寝息と私の名前を呼ぶ声に、薄っすらと目を開けた。
「ひっ」
右隣に今夜一緒に飲んでいた後輩のMちゃんが寝ていた。部屋の鍵は掛けたはずなのに何処から入って来たの?それにMちゃんは彼の車で、私よりももっと早い時刻に帰宅したはずだ。
「なぁ~に?彼氏と喧嘩でもしたの?」
どうしてだろう?其処に存在している事自体が可怪しいのが分かっているのに、私は普通に話しかけていた。
Mちゃんは私が訊ねると大きな瞳をゆっくりと開き、何も言わずに寂しそうな笑みを浮かべて、だんだんと薄くなりやがて消えていった。
「何、今の?夢?それとも酔いが見せた幻?」
その夜は暑いのに布団を被って、そのまま眠ってしまった。
次の日の早朝、バイト先のマスターの電話で叩き起こされた。
「MがMが死んじゃった!」
「えっ?!何言ってるの!マスター!だって、昨日、あんなに元気に一緒にいたのに?」
私達と別れた直後に交通事故にあって、ほぼ即死に近い状態で亡くなったと話すとマスターは、電話の向こうで号泣した。
じゃあ、昨夜のあの出来事は私にお別れに来てくれたの?
それだけではない事は数日後、Mちゃんが私のベッドに再び現れた時に判明した。
私の隣で、また彼女は眠っていた。
「探して」
彼女の声が耳で聞こえたのか、超能力のように心に響いたのか分からないが、私に確かにそう伝えていた。
「探して」
何を?
何を探したらいいの、Mちゃん?
Mちゃんの葬儀に参列した際にその答えが、やっと分かった。
「耳」
彼女は事故で失った耳を私に探して欲しいと訴えたのに違いないと思った。
そして私は…
この実話をフィクションにして7ヶ月前に書いた。もし、お暇な時間があったらどうぞm(__)m
小説らしい物を書き始めた最初の頃の作品。
Mr.ランジェリーさん、恐怖体験だけでオチがないんですけど、いいですか?(苦笑)
よろしくお願いしますm(__)m