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【RSI】完全解説 Vol.3 ワイルダー著書編

RSI完全解説Vol.1RSI完全解説Vol.2にて、よく巷で散見されるRSIについての一般的な基礎知識を解説いたしました。

では、今回は本家本元RSIの生みの親であるJ.W.ワイルダー氏は自身の著書の中で、RSIについてどのように解説をしているのかについてフォーカスしてみたいと思います。

初めてRSIが登場したのが、1978年に上梓されたワイルダー氏の著書
『New Concepts in Technical Trading Systems』ですので、今回はこちらの著書を参考にRSIを紐解いていきたいと思います。


【モメンタムの概念】

RSIを解説するにあたり、ワイルダー氏はまず初めにモメンタムオシレーターの概念についての説明を文頭に記しています。

モメンタムオシレーターは価格の動きに方向性がある時、その速さを計る方法であり、価格は急騰すればいずれは買われ過ぎの状態に、急落すればいずれは売られ過ぎの状態となり、近くその状態が反転、または反発することを意味しており、モメンタムオシレーターとはそれをグラフ化したものだと説明しています。

本書別項も参照しつつ要約するに、モメンタムオシレーターはマーケットの加速と減速を捉えることができるオシレーターということになります。

なぜ冒頭でモメンタムの概念について言及しているかというと、このモメンタムオシレーターこそがRSIの基となっているからに他なりません。

巷では偶に、サイコロジカルラインを改良したものがRSIだという解説も見ることがありますが、実際はそうではなくモメンタムオシレーターを基に作出したものがRSIであると作出者本人は語っています。

RSI完全解説Vol.1の冒頭でサイコロジカルラインを紹介しつつ、その終わりに、RSIの作出意図と作出過程においてサイコロジカルラインとは関係がない旨を言及したのはこの為です。
あくまでも、入り口として分かりやすいように解説したに過ぎないことを改めて書き残しておきます。

モメンタムオシレーターの欠点を補完するような形で改良がなされたわけですが、そこには解消すべき問題がいくつかありました。

【解消するべき3つの問題】

より有用なオシレーターを開発するにあたり、3つの問題をクリアする必要がありました。

  1. 価格の一時的な乱高下による極端な数値の影響を抑えるために、値を均す必要がある。

  2. 縦軸の目盛りを如何にして決めるか。

  3. 計算するにあたり、膨大な量のデータを保存しなくてはならない不便さ。

1つ目から見ていきましょう。
これはモメンタムオシレーターの特性上、例えば、ストップ安やストップ高、大きく値が飛んだ時など、極端な値動きがあった場合に算出された値は、今の相場の状況を適切に表しているとは言えず、分析に役立てるためには扱いづらい値となってしまうきらいがあります。

そのため、相場の今の状況を適切に表すために、極端な数値をなるべく均す必要がありました。
(※この問題に関しては、モメンタムオシレーターの算出方法などを解説することで腑に落ちやすくなると思いますが、今回は本題から逸れてしまいますので、また別の機会に詳細を取り上げられればと思います。本記事に関しましては、「極端な数値を均す必要がある」とだけご理解いただければ差し支えありません。)

2つ目は、目盛りについてです。
対象としている全ての商品に対して、同じようにオシレーターの高低を判断できるように、全ての商品に共通する公分母が必要でした。
商品によって縦軸の目盛りが変化してしまっては、全ての商品で同じ高低の判断ができず非常に不便になってしまいます。

3つ目については、ワイルダー氏本人も3つの中では一番小さい問題とはしていますが、計算に必要となるデータの量を如何に抑えるかというものです。
現在でこそ、どんなパソコンであろうと、それこそ手のひらに収まるスマートフォンですら膨大な量のデータを扱っての計算も瞬時にできるわけですが、今から半世紀近くも前の1970年代においては、なるべく計算に必要となるデータ量を抑えるというのも、使い勝手の良いオシレーターの条件として非常に重要な要素の一つでした。

これら3つの問題をクリアしつつ、有用なものとしてオシレーターを基に作出されたのがRSIなのです。

これらをワイルダー氏はどのように解決していったのでしょうか。

まずは本題に戻し、ワイルダー氏のRSIの計算方法から見てみましょう。

【RSIの公式】


RSIの公式


最初のRSIの計算にだけ、過去n期間の価格が必要となりますが、それ以降は1つ前の期間のデータだけあれば算出できるようになっています。

ここでは、ワイルダー氏が使用していた、n期間を14日間の終値としたものを例にとって見ていきましょう。

  1. 過去14日間の終値で前日と比べて上昇した日の上げ幅を合計し、14で割ったものを平均上昇幅(①)とします。

  2. 過去14日間の終値で前日と比べて下落した日の下げ幅を合計し、14で割ったものを平均下落幅(②)とします。

  3. 平均上昇幅①を平均下落幅②で割ることにより、RSを求めることができます。

  4. RSに1.00を足します。

  5. 100を上の(4)で算出した数値で割ります。

  6. 100から、(5)で算出した数値を引けば、最初のRSIを求めることができます。


これ以降の計算には、上昇幅と下落幅の平均値だけあれば求めることができます。

  1. 最新の平均上昇幅は、前日の平均上昇幅を13倍にし、当日の終値が上昇していればその分を足して、合計を14で割ります。

  2. 最新の平均下落幅は、前日の平均下落幅を13倍にし、当日の終値が下落していればその分を足して、合計を14で割ります。

  3. そのあとは、最初のRSIの値を算出した時と同じ3~6の工程で求めることができます。

【デイリーワークシート】


ワイルダー氏は上記の計算を行うべく、デイリーワークシートというものを作成し日々手書きで記入していました。

現代ではExcelという大変便利なツールがありますので、ワイルダー氏が当時、手書きで記入していたものを参照しシートにまとめてみました。

デイリーワークシート

項目は全部で10個あり、1からそれぞれ

  1. 日付

  2. 終値

  3. 上昇幅

  4. 下落幅

  5. 上昇幅平均

  6. 下落幅平均

  7. 上昇幅平均÷下落幅平均

  8. 1.00+⑦の値

  9. 100÷⑧の値

  10. 100-⑨の値=RSI

これらの項目を使いどのように計算していたのかを見ていきましょう。


デイリーワークシート2

上記のデイリーワークシートは、日足14日間の終値から算出されるRSIの値になっています。

②には終値、③には前日終値から見た上昇幅を記入、下落で終えた場合は記入しません。④には前日終値から見た下落幅を記入、上昇で終えた場合は記入しないこととします。

そのように記録したのち、日付2~14までの期間が経過したところで、まず1番初めのRSIを算出するのに必要な数値が出揃いました。

  1. 赤枠の上昇幅合計11.80と下落幅合計4.10を、それぞれを14で割ることで、上昇幅平均0.84と下落幅平均0.29が算出されます。(水色枠)

  2. ここで算出された上昇幅平均を下落幅平均で割り、⑦の値を求めます。(オレンジ枠)

  3. ⑦の値に1.00を足し⑧を求めます。(黄緑枠)

  4. 100で⑧を割った値が⑨となります。(黄色枠)

  5. 最後に100から⑨を引くことで、RSIの値が算出されます。(右辺青枠)

これ以降は⑤の上昇幅平均を13倍し、③の上昇幅を合計し14で割ることで最新の上昇幅平均を求めます。

最新の下落幅平均は、⑥の上昇幅平均を13倍し、④の下落幅を合計し14で割ることで求めます。

どちらの場合も、上昇幅、下落幅がなかったときは0として計算します。

例:16日目の場合
上昇幅平均=0.84×13=10.92+0.07=10.99÷14=0.79

下落幅平均=0.29×13=3.77+0=3.77÷14=0.27

最新の上昇幅平均と下落幅平均を求めることができましたので、前述の2~5の手順で最新のRSIの値を算出することができます。
以降も最新のRSIの値を求めるには、この繰り返しとなります。

これらの計算方法で先のオシレーターにおける3つの問題をクリアすることができたのかを見ていきましょう。

【解消すべき3つの問題とRSI】

  1. 上昇幅平均、下落幅平均の値を使い、そこに最新の数値を合計してRSIを算出することで(著書では移動平均という言葉が用いられている)、価格の乱高下を抑えつつ、十分、価格の動きに対応できている。
    =価格を均しつつ、相場の現況に則した動きを実現。

  2. RSIの値が必ず0~100で表せることから、多くの商品を同じ尺度で測ることが可能となり、また同一商品の過去の高低も比較することが可能となった。
    =共通の公分母の利用によって、比較、検証が容易となった。

  3. 最初のRSIの値を算出した以降は、前日のデータさえあれば計算できる。=膨大な量のデータ保存の必要はなくなった。


こうして、モメンタムオシレーターの問題を補完するような形で作出されたRSI。
この補完までのプロセスにより、RSIの特性が生み出されたことになります。

なぜ0~100の範囲で表しているのか

なぜ上昇幅、下落幅を平均化した上で計算に使用しているのか

それらは全て、既存のオシレーターの問題点を克服し、より有用なオシレーターを作出するために考え出されたものなのです。

もちろん、これら作出過程や計算式を知らずとも、利用することは可能ですが、RSIとは一体どこを見ているのか、また、作出意図は何だったのかを知ることで、その数値が持つ意味をより深く理解できるのではないでしょうか。

とは言いつつ、こうして深堀するのも私自身が単に「なぜ」を残したままだと、相場と上手く向き合えないからという理由だけだったりするのですが…笑

余談はさておき、次回はワイルダー氏が提唱する、RSIの使い方というものを解説していきたいと思います。
作出者本人は、RSIをいったいどんな使い方をしていたのでしょうか。

ここまで、読了いただきありがとうございます。



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