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ペアルックしよう!なんて、恥ずかしくてもう言えないけれど。
もうそろそろ30歳になるというのに、楽しいことが控えている前の晩は、わくわくして眠れない。何を着ていこうか、髪型はどうしようか、お化粧に何分かかるだろう……。
コーディネートを思いついたら、常夜灯だけの薄暗い部屋でゴソゴソとクローゼットからお洋服を取り出してきて、壁にかけてしまう。そのお洋服をチラチラと眺めながら眠りにつく夜は、もしかしたら当日よりも好きかもしれない。
だから、この夜もわたしが「明日はこれを着るの!」と淡いデニム地のワンピースをハンガーに掛ける姿を横目に「あなたは本当に楽しそうねえ」と笑う人を眺めているだけで、天に登っていきそうに舞い上がっていた。文字通り有頂天。
翌朝も出かける時間を逆算しながら、顔を洗い、モーニングコーヒーを飲んで、お化粧をして、着替えて、髪の毛をアップにして。さぁ出かけようと玄関を飛び出したら、それはそれは気持ち良い青空で。
大きく息を吸って、我に帰ると、鍵を閉めていたはずのその人はもう家の前の坂をもう歩き始めていて。ようやっと、その人の全身像をこの日初めて見たような。自分のコーディネートはあんなにも真剣に悩んだのに、他人のことはよく見ていないの、本当にわたしって自己中心的なんだなぁとびっくりする。
一応言い訳をするとね。お家にいると、つい補聴器を外してしまう時間もあるので基本は相手の口元を中心とした顔ばかり見ていて。眉の動き、目線、口の形……それから時たま動く手元を。となると、どう頑張ってもトップスまでしか目に入らないのです。えへへ。
それで、坂道を歩き出すその人を追いかけながらその全身像をやっと目にしたわけ。お気に入りすぎて再販を心待ちにしているスニーカーに……それから、淡い青色のデニムパンツ。
!!!!?!!!?
えええー。これはズルすぎるでしょう。わたし、前の晩からデニムのワンピースをハンガーに掛けて鼻歌うたってたんだからね。
完全にしてやられたので
「ねぇ、ペアルックみたいだねぇ」
と隣に駆け寄ると、済ました顔で
「ああ、デニム?たまたまだよ。」
なんて返されてしまったけれども。
年甲斐もなく、ひゃーこれはデートみたいだぞ!と坂道をスキップしては「あなたは本当に楽しそうねえ」と微笑む人の隣で有頂天になっていたいつかの昼下がりでした。
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