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男女の友情は、成立するのか否か。
初めて降り立つ駅のロータリーで、指定された車を探す。たぶん、これだ。見つけた車を覗くと君がいた。わたしは、助手席にスルリと乗り込んだ。
高校の同級生で、今も付き合いが続いているのは片手で数えられるくらい。高校卒業を機に父の転勤があったから、あの地に帰る場所がなくなってしまって自然と足が遠のいた。同窓会の案内が数回きたけれど、そのために行こうと腰があがらなかったのも、原因の一つかもしれない。
けど、彼は特別だった。思えば、高校時代好きな人ができたと言ってはウジウジしていたわたしに叱咤激励をしてくれたのは、彼だった。大学に入ってからも社会人になっても、彼氏や彼女と喧嘩すれば愚痴を聞き合い、失恋すれば励まし合った。「お前には、もっとふさわしい男がいるんだから、そんなやつ忘れちまえ!」とおいしいご飯に連れて行ってくれた。
頻度としては、2.3年に一度くらい。
京都・神戸・東京・そして今回の広島。特に決まりがあるわけではないんだけど、ふと会いたいなと思うタイミングに彼がやってきてくれることがほとんどで。わたしが彼に会いに行ったのは、今回が初めてだ。
彼氏と喧嘩をしたわけでもなければ、失恋をしたわけでもない。でも、宮島の厳島神社に行きたいとここ数年ずっと思っていて、行くタイミングがきたから。そして、たまたま彼が広島に住んでいたから。いや、体調を崩している今、ちょっと寂しくなったのかもしれない。
「宮島に行きたいんだー」
とLINEをしたら
「おー。じゃあ、休み取るよ」
と返ってきて会うこととなったのだ。
当日、待てども待てども彼はやってこない。仕事でトラブルがあったらしく、休日出勤になってしまったそうだ。
お仕事ならば、しょうがない。
宮島を1人で満喫して、夜の広島駅で合流した。
わたしが車に乗り込んで早々、彼のスマホに職場から電話がかかってきた。
「はい。後藤です」
そう答えた彼に思わず笑ってしまった。電話が終わるまでクスクスと笑い続けるわたしに、彼は不思議そうな顔をする。
「いや、後藤だったっけ……」
高1で出会ってから約10年。恋愛関係になったことは一度もないんだけれども、ずっと下の名前で呼び続けていたから名字なんてすっかり忘れてしまっていた。
クスクス笑い続けるわたしに
「どうも!後藤です!!」
と戯けてくれる。
そんなこんなで、お好み焼き屋さんに着く。広島ですし、とりあえずお好み焼きを。
「どれがいい?」
そう聞かれて卵に目がないわたしは
「温玉とろろ焼き」と「半熟豚玉焼き」を所望する。すると彼が笑いながら「お前、センスいいな。俺もいつもそれ頼む。」と注文する。
仕事のこと、高校時代よく通っていた某ハンバーガー店が潰れたこと、共通の知人の結婚や出産の話を取り留めもなく1時間半くらい。
どちらともなくさっと帰る支度を始めて、レジへ行く。今日はデートをすっぽかしたから、お詫びにご馳走してくれるらしい。
車に戻り、ホテルまで送ってもらう。
「お仕事帰りにありがとね」
「いやいや、わざわざきてくれたのにごめんな!」
そんな話をしていたら、もうホテルの前で。
「忘れ物するなよ!」という彼に「忘れ物、したくないし!」と返事をして車を降りる。
手を繋ぐことも、肩を触れ合わせることもないちょうど良い距離感。毎日連絡を取り合わなくても、ふとしたときに連絡を取り合うちょうど良い距離感。でも、名字ではなく名前で呼び合う関係。互いに、「この人は自分に対して恋愛感情をもってこない」と思っている安心感のようなものは何なのだろう。
巷で、「男女の友情は成立するのか」なんて話があるけれど彼との間にはあるような気がしていて。いや、あって欲しいと、わたしが勝手に強く願っているだけなのかもしれないけれど。
そんなことを考えながら
「またね」そう言って、彼の車が見えなくなるまでその場に立ち尽くすわたしがいた。
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