
大切な友達との大切な時間を掬ってくれたのは、手話だった。
最後の一瞬まで、語り尽くす。
高速バスの中と外で、こんなにも楽しそうに喋り続ける人たちは、周りにはきっといない。せいぜい手を振っているだけ。そんな中わたしたちは、大好きな友達との別れを、最後の一瞬まで楽しみ尽くした。
東北は、広い。
隣県へ行くのにも高速バスや新幹線を利用する。関東では神奈川や埼玉から都内に通勤する人がごまんといるけれど、仙台から盛岡まではちょっとした旅になる。
友人との別れ際。まだまだ話し足りないことがたくさんある。駅へ向かう道中、友人は手話を使うこともすっかり忘れて無我夢中でわたしに話しかけた。所々聞き返しながら、笑い転げて寒空の下を歩いた。
会話の内容はなんてことない。学生の頃の恋人のことや趣味のこと。学生の頃のように、ただ隣を歩いているだけで楽しい。そんな時間も、刻々と終わりに近づく。
バス停についても、彼女の話は止まらない。寒いからいますぐにでもバスに乗りたい気持ちとこのまま彼女の話に笑い転げ続けたい気持ちが拮抗する中、乗車予定の高速バスがやってきた。
iPhoneの充電が30%を切っている。
これは、窓側を死守せねば。
あんなにも別れ難かったのに、バスが来た瞬間飛び乗った。
でも大丈夫。わたしたちは、バスに乗ってからもおしゃべりを続けられる。
だって、手話があるんだもん。
夜のバス停に遮光ガラス。
見えにくいからその分動きも大きくなるけれど、何事もなかったかのように会話が続行する。日本語から手話へと言語を変えて。
みんなが静かに自分の席に座る中、わたしたちは生き生きとしていた。わたしたちのまわりだけ、ちょっぴり輝いていたんじゃないかな。なんて錯覚するくらい。とにかく、全身で会話を楽しんだ。
もう、バスが発車してしまう。
それでもわたしたちは喋り続ける。
気をつけてね。また次会うのは……とりあえずいつか!本当に気をつけてね。
手話は、聞こえる友達との一分一秒をもとりこぼさないでくれる、わたしの大切なもので。それを共有してくれる友達に恵まれている幸せを噛みしめながら、隣県へと小旅行の帰路についた。
いいなと思ったら応援しよう!
