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相手のことを思って、人が人を大切にするということは。
それは、お稽古終わりの挨拶のときだった。
卒業証書のかわりだと思って受け取って。
と、先生から白い箱が手渡された。
中身は、薄ら桃色の草履。
あまりにも突然の出来事に、固まってしまったわたしへ先生が続ける。
わたしの実家はね、草履屋なのよ。
だから、うちのを履いて欲しくてね。
顔をあげると、にこにこと笑みを浮かべた先生の顔があった。
***
高校生以来のお茶を再開して約10ヶ月。秋頃に炉が出てからは、初釜に向けて着付けのお稽古もしていただいていた。
年末にはなんとか長襦袢から半幅帯までひと通り着られるようになったけれど、どうしても名古屋帯や袋帯となると手が止まってしまったり形が崩れてしまう。
そんなわたしを見かねて、初釜後も引き続き着付けのお稽古をしていただいていた。
今日のお稽古では、ついに先生の手を借りずになんとか一人で帯を締めることができた。先生の帯も締めさせていただいて、普段鏡で見ている細かい動きを実際に目で確かめながらふむふむと学んだ。
そんな今日。
お茶のお稽古にきたはずなのに、気付いたら着付けのお稽古をしている時間の方が長かった
なんて日もあったし
初釜は結局先生に帯を締めていただいた
という悔しさもあった分、今日ひとりで帯を締められたことが本当に嬉しかった。
そのわたしの喜びを、先生も一緒に喜んでくださっているのが伝わってきてとてもとてもうれしい卒業証書。
常に相手のことを思って、人が人を大切にすることが、お茶なのよ。
そうおっしゃる先生のあたたかいお心に包まれて、新しい草履でまた一歩踏み出して行こう。
そんな門出の卒業証書。
コロナウィルスの対応でてんやわんやと悔し涙を流したり、プライベートでもちょっぴり悲しくなるような出来事が続いていたりする今だからこそ、人が人を大切にする文化をわたしの日常に取り入れて行こう。そう改めて決意した真新しい草履。
とは言えまだまだこの草履に見合う着付けには及ばないので、来月からも月に一回着付けのお稽古をしていただくことになりました。
がんばろうっと。
今日もお疲れ様でした。
おやすみなさい☺︎
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