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たんと時間のある夜は。
キッチンから、醤油と酒の混じった懐かしい香りが漂ってくる。亡くなった祖母がいつも「お料理はね、お酒と醤油があれば大体味が付くのよ」そう言いながら料理をしていた姿が、脳裏を過ぎる。
わたしの、わたしたちの世界が大きく動いた約1ヶ月だった。
日々、自分が誰かを傷つけてしまっていたらどうしようとちょっぴりおびえるような。いや、本当におびえていたから、週末は一切外に出ない。そんな日々。
それでも、事態は刻一刻と変化している。
東京に来てからは特におうち大好き人間で、週末の予定にわざわざ「お篭り」と書いちゃうくらい引きこもり体質になったわたしには、この自粛は願ったり叶ったりなんじゃないか。そう楽観的に考えていたけれども、やっぱり丸一日誰とも会話をしないことはストレスになってきた。
美味しいものでも、食べよう。
たんと時間があるんだから、時間をかけてグツグツできるものを作ろう。
そう思ったわたしは、おばあちゃんのレシピを思い起こしながらナメタガレイを煮つけ始めた。
グツグツ
ナメタに限らず、我が家ではよくカレイの煮付けが食卓に並んでいた。醤油と酒、そして生姜の効いたあの匂いはよく慣れ親しんだ匂いで。
懐かしい匂いに、待ちきれなくなって何度も鍋の中を覗き込む。
おばあちゃんがお魚を煮ていたときも、母が煮ていたときも、ついつい匂いにつられてお鍋を覗き込んでいたっけな。
土鍋のご飯が炊けたタイミングで、カレイも食卓へ。
定食の様に並んだご飯を眺めるだけで、少しほっとする。
そして、ちょっぴり人恋しくなる。
そうだ、母にテレビ電話をしよう。
今日は、カレイを煮たんだよ。
世の中が落ち着いてきたら、また、お母さんの煮たカレイを食べたいよって。
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