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高嶺の花を手にした夕暮れ
女の子に生まれたからには、花束をプレゼントされたいと思う。慣れ親しんだいとおしさ右手に添えたいときには、ひまわりの花束を。特別な日には、芍薬を。
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「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」なんて例えられる、華やかさと芳しさを揃えもつこの花は、わたしの恋愛のバイブル『GOSSIP GIRL』で知って以来の憧れだった。
芍薬の蕾は、毎年5月の半ばからお花屋さんに並ぶ。けれども、一本1,000円近くすることもあるその花は、憧れすぎて手に入れられない存在だった。
今年も、近所のお花屋さんを訪ねたときに見かけて何分も眺めては、憧れを膨らませた。それでも、高嶺の花すぎて手にするのは恐れ多いと通り過ぎてしまって。
でも、その足でカフェに行っても芍薬が脳裏から離れなくていてもたってもいられなくなったわたしは、結局もう一度花屋さんを訪れて手にしてしまったのだ。普段なら恐れ多いお値段も、ワンコイン程度だったのが最後の決め手。
それが、2週間前のこと。
あまりにも嬉しくて、毎日水を替え、タイミングをみて水切りをしては、蕾が開いていく過程を楽しんだ。
ふわっと開いたその花は、想像通りの高貴さを纏っていて。たった一輪の芍薬があるだけで、わたしの生活が、ちょっぴり大人っぽくなったような、そんな気がした。
6月に入って芍薬の値段も少し落ち着いてきた。今までは「高嶺の花だから……」と手を出せずにいたけれど、いっぺんあの蕾が開いていく日々を知ってしまうと、もう病みつき。
今回は濃いピンクのお花だったから、次回は白か薄ピンクの芍薬を眺めよう。
こう思い立ったわたしは、週末にお花屋さんをまわってみることにした。でも、濃いピンク色の芍薬ばかりで、白に近い薄ピンクの芍薬はもう出まわっていない。
花との出会いは、一期一会。
旬の時期にしか出回らないからこそ、見つけたときにお迎えしないといけないんだな。
そんなことを身に染みて実感した週末が明け、また忙しない平日がはじまった。そんなある平日の夕方のこと。
夜ご飯の材料を買いに近所のスーパーに行くと、ぎゅっと閉じた蕾がふたつ、生花コーナーに鎮座していたのだ。
そう、それは紛れもなく白い、芍薬の花。
諦めかけていたその花に、まさかこんな場所で出会うとは。あんまりにもびっくりしたものだから、スーパーで思わず立ち止まって、何も考えずにカゴに入れてしまった。
花との出会いは、一期一会。
逃してしまった理由に言い聞かせていたこの言葉を、なくしてしまったと思っていたその花との出会いにまたつぶやく。
あんまりにも嬉しくて上を向くと、きれいなあかね空が、ゆっくりと西に沈んでいくところだった。そう。あの色が真上にあったちょうどそのとき、わたしは白い芍薬の蕾に出会った。
その軌跡を残したくて、パシャリと一枚。
芍薬の花束を手にする日も、そう遠すぎない未来にやってきますように。なんて、願いをこめながら。
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