「『ポビドンヨードによるうがい』の新型コロナ軽症患者への活用」研究は、倫理審査手続きがまずいのでは?
大阪府のポビドンヨードによるうがい研究の発表には、Twitterで医療系クラスタを絶句せしめたようです(個人の観測です)。科学的な側面についての指摘は多数入っていますし、私もどうかと思う点もあります。
しかし、研究内容の詳細は明らかにされていないので、もしかしたらちゃんとやっているのかもしれません。解析を担当されているのが、横浜市立大学医学部 医療統計学 山中竹春先生ですから、おそらく報道や大阪府の公開情報以上に何かされているのだと思います。
それはそれとして、倫理審査上の問題があるように思いますので、指摘したいと思います。
「観察研究ではない」問題
大阪府のサイトにあるpdfファイルによると、研究タイトルは「宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究」としているようです。
しかし、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」では、ざっくり「研究目的でなんかする」のは「介入」として定義されているので、これを観察研究として実施したのであれば、倫理指針への違反があります。
(3)介入
研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動及び医療における傷病の予防、診断又は治療のための投薬、検査等を含む。)の有無又は程度を制御する行為(通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するものを含む。)をいう。
(人を対象とする医学系研究に関する倫理指針から引用、強調は著者)
研究対象者(ホテル宿泊療養 COVID-19 患者)は、研究対象者でなかったら「ポビドンヨードによるうがい」は行われていません。研究対象者は研究に参加したことにより「ポビドンヨードによるうがいを行う」という制御を受けています。
そのため、観察研究ではなく、介入研究だと考えられます。介入研究では、より厳密な倫理審査(迅速審査では不可)を受ける必要がありますが、「観察研究」というタイトルが残っていますので、厳密な倫理審査を受けていない可能性があります。
「適応外使用」の可能性
ポビドンヨードの添付文書(薬の説明書)には、下記のように記載されています。
【効能・効果】
咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防、口腔内の消毒
【用法・用量】
用時15~30倍( 2 ~ 4 mLを約60mLの水)に希釈し、 1 日数回含嗽する。
当たり前ですが、「新型コロナウイルス感染症」に対する効能・効果は明記されていません。
つまり、適応外使用に当たる可能性があります。
適応外使用であれば、本研究は臨床研究法に定められる特定臨床研究(千葉大学サイトの説明)に該当します。この場合は通常の臨床研究とは幾つかの相違点があります。
認定臨床研究審査委員会での審査はなされたのか?
まず、特定臨床研究は認定臨床研究審査委員会(CRB)での審査が必要です。大阪府には3委員会があります(全国のCRBリスト)。これらの委員会のいずれかで審査されたのでしょうか。
研究の事前登録は行われたのか?
次に、特定臨床研究では研究実施に先立ってjRCTへの登録が必要です。登録が必要な理由としては、「『研究者や製薬企業にとって良くない結果』が出た時に、研究結果を公表しない」というズルい行為をさせないという理由があります。
jRCTで「ポビドンヨード」をキーワードに検索してみましたが、下記2件のみで、本研究の登録はありあせんでした(2020/08/15現在)。
また、特定臨床研究以外の研究の登録に用いられているUMIN-CTRでも「ポビドンヨード」をキーワードに検索しました。ヒットしたのは13件のみでした(2020/08/15現在)。
いずれも、大阪はびきの医療センターが実施責任組織となって、新型コロナウイルス感染症に対する効果を検証している研究はありませんでした。
まとめ
「宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究」についての倫理審査上の問題点は、次のような点です。
・介入があるのに観察研究として倫理委員会で審査・承認された可能性
・特定臨床研究の可能性があるが、認定臨床研究審査委員会での審査があったか不明
・jRCTやUMIN-CTRへの登録がない。
引き続き、研究を行うとのことですが、科学的な点だけではなく、倫理審査上の不備が無い様、十分な検討も十分に行って欲しいと思います。
利益相反(COI)について
本研究の関係者との利益関係はありません。
金銭・経済的なCOIはありません。ただし、金銭を頂くことを拒否している訳ではありません。何か贈りたい方は是非お願いします(ダイマ)。