アウトカムの結果で条件付けたら誤りになる理由
前の批判的吟味ノートで、摂食障害の結果であるBMIを調整するのは、マズいと指摘しました。このノートでは、その理由を説明します。
「アウトカムの結果での調整は『コライダーの調整』になる等、良い事は何も無いないので、止めておきましょう。」という話です。
論文著者らの見解
Sexually Objectifying Environments: Power, Rumination, and Waitresses’ Anxiety and Disordered Eating
著者らは、パス解析のモデルとして、次のような図を想定しています。
しかし、この図には中間要因以外がありません。
つまり、因果関係を明らかにするために必要な変数・因子が揃っていないという懸念があります。
ここでは、アウトカムの結果である「BMI」の取り扱いについてDAGで検討します。
DAGパターン1
著者らも本文中で指摘しているように、BMIは摂食障害の結果です。
また、性的モノ化環境は「痩せていなくてはならない」といったプレッシャーがあり、BMIを減らす方向に影響があると考えます。
これをDAGにまとめます。なお、説明の簡略化のため、中間要因は削除し、各変数は二値変数としています(簡略化していますが、本質的な問題はかわりません)。
このDAGには、バックドアパス(A→L←Y)が1個ありますが、BMIがコライダーになっていますので、このパックドアパスは閉じられています。
そのため、他の変数の影響が無ければ(*1)相関関係が因果関係と等しくなります。つまり、次式が成り立ちます。
しかし、BMIで条件付けると、このバックドアパスが開いてしまいます。この結果、次の式は左辺と右辺が等しくなりません。
この左辺が潜在アウトカムで、右辺が標準化によってBMI(L)を調整したアウトカムです。
この式の左辺と右辺が等しくならないため、論文中で算出された数値は、「性的モノ化環境が、摂食障害に与える影響」と言えなくなってしまいました。つまり、著者らの戦略は失敗に終わったと言えます。
*1 他の変数の影響が無ければ
実際は、共通原因などの他の変数の影響もあるので、因果と相関が一致することは、ほとんど無いと思います。
DAGパターン2
次に、著者らの言う関係(BMIは摂食障害の結果である)だけだと想定します。
このDAGにおいて、BMI(L)はバックドアパスを構成していませんので、条件付ける必要がありません。
また、仮に条件付けるとどうなるのか、100人の仮想的なコホートを用いた具体例で示したいと思います。
上表の100人の分割表は、下記の条件で作っています。
・性的モノ化環境があると、摂食障害のリスクが2倍となる。
・摂食障害があると、BMI異常のリスクが4倍となる。
・結果として、56人にBMI異常あり。
つまり、リスク比=2.00という結果が得られれば正解です。しかし、下記の様にBMIで調整すると、調整リスク比=1.59になってしまいます。
明かな過小評価になってしまいました。BMIへの調整という操作によって、正しい評価を行なう事に失敗してしまいました。
まとめ
因果推論を行なう上で、興味のあるアウトカムの結果を調整することによって良いことはないので、止めておきましょう。