広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.2

6月28日(火)
「立川談笑一門会」@武蔵野公会堂


6月28日の演目はこちら。

立川笑王丸『山号寺号』
立川談洲『花見小僧』
立川談笑『宿屋の富』
立川吉笑『非明晰夢』
立川笑二『景清』

前座になって1年の笑王丸、『山号寺号』は色々遊べる噺だけに、随所に自分のフレーズを入れて楽しく演じた。サゲは「ご破算、大赤字」。

談洲の『花見小僧』は定吉がおせつの花見とは関係ない自分の隠し事をベラベラ喋る一幕がサゲに繋がるという演出。流れ弾を食らった番頭、という構図が面白い。

談笑の『宿屋の富』は一文無しが宿屋の主人の前で田舎者を装う型で、これは談志だけのもの。談志は志ん生をベースに独特なアレンジを施していたが、談笑はその談志型をさらにアレンジ。屋敷は奥州・上州・上総にあるという設定。職業を訊かれ「ひとことで言えば資産家」と答えるのは談笑らしい。談志型のままサゲに行くかと思いきや、通常の「布団をめくったら」のくだりは「そんなんじゃ落ちない」と素通り。宿の主人が「やっぱりお金持ちは大したもんですねえ、私ら貧乏人だったら『宿の親父に半分やらなきゃいけない』なんて約束したら、この宿に戻ってきませんよ」と感心し、それを聞いた一文無しが「しまった!」でサゲ。「売った人間が証人にならなきゃ千両もらえない」という設定ゆえに戻ってくる、というのが普通の『宿屋の富』だが、談笑の場合は『富久』で「拾ったクジを持ってきても“善意の第三者”として千両受け取る権利がある」という解釈を披露しているから、これもアリなのだ。

『非明晰夢』は『明晰夢』と同じく、ナツノカモ作。隠居を訪ねてきた八五郎が今朝みた夢の話をしたいと言い出すのが発端。その状況が夢だった、というのが八五郎の夢、と思ったら実はそれが隠居の夢だったという「夢が夢を包む」多重構造の噺……という落語を喋っている男に「毎晩、眠ろうとするとアンタが出てくるからうるさくて眠れないよ!」と文句をつける男が出てくるという斜め上の展開へ。この噺を演るのはこれが二回目というが、この一筋縄では行かない展開は吉笑によるアレンジだろうか。アクロバティックな展開でも混乱させずにスッキリ聴けるのは吉笑のウキウキさせる語り口の楽しさがあるからこそ。

笑二の『景清』は定次郎が木彫り師だったという設定を噺の中心に据えているのが素晴らしい発想。定次郎が石田の旦那に語る木彫り師時代の葛藤と屈折、そして後悔……。「目が明いたらまた木彫り師に戻りたい」という切実な台詞が胸を打つ。石田の旦那が定次郎に親切にするのも「また木彫り師になってほしい」から。観音様に百日通っても目が明かず捨て鉢になる定次郎を優しく諭し、賽銭も母子の生活の面倒も見ると言って「その代わり目が明いたら私のために観音像を彫っておくれ」と注文する石田の旦那の描きかたが素晴らしく、ハッピーエンドの余韻が心地好い。時に笑いも交えるセンスは笑二ならでは。真に迫る表現力に磨きが掛かった。

吉笑・笑二の二人はいつ真打になってもおかしくないレベル。いい一門会だった。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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