広瀬和生の「この落語を観た!」vol.100

11月21日(月)
「けんこう一番!第22回三遊亭兼好独演会」@国立演芸場

広瀬和生「この落語を観た!」
11月21日の演目はこちら。


11月21日「けんこう一番!第22回三遊亭兼好独演会」@国立演芸場

三遊亭兼好『初天神』
三遊亭けろよん『雑排』
三遊亭兼好『鈴ヶ森』
~仲入り~
桂小すみ(音曲)
三遊亭兼好『宿屋の仇討』

『初天神』は飴玉~団子。団子の蜜を父親が全部なめて真っ白になった後の展開が意表を突く。父親の意外な行動に子供が「こんなことなら、おとっつぁん連れてこなければよかった」と嘆いてサゲる趣向。ここまでの楽しい展開が壮大な仕込みにもなっているというヒネリの利いた素敵な演出だ。

『鈴ヶ森』は新米のボケの数々が独特で、それに対する親分のツッコミも実にユニーク。軽妙なやり取りは一流のコントのようで、いちいち新鮮に笑える。フンドシしてない新米がしゃがんで突き刺さるのは誰かが引き抜いて逆さになった大根で「普通は竹の子でしょ!」「季節感」(笑) 怯えながら通行人の前に出て追剥に掛かった新米に、相手が「てめえみたいな野郎に何のかんの言われて尻尾を撒いて逃げ出すようなお兄ぃさんじゃねえ! てめえなんざ顔洗って出直せ!」と凄むと「いえ、足洗ってカタギになります」でサゲ。お見事!

『宿屋の仇討』は八代目正蔵系で、前夜に小田原で浪花屋に泊まった万事世話九郎が神奈川宿の菊屋に泊まる型。源兵衛が色事自慢で語る不義密通の相手は高崎の殿様の御指南番・三浦忠太夫の奥方。源兵衛が「色事の話をしよう」と言った時の「それはちょっと無理…俺たち“はにほへと三人組”って言われてるもん」「何だそれ」「“いろ”がない」なんて会話の楽しさは兼好ならでは。伊八に「隣りに三浦忠太夫さんが」と言われた時の「前に温泉で聞いた話をこの道中で何度も話して盛り上がっただけ」という言い訳は珍しい。翌朝、縛られた三人組を見せた伊八に「真ん中が源兵衛です」と言われた世話九郎の「ほう。源兵衛、おはよう」というトボケた反応の可笑しさ。「あれは座興じゃ」の後、ああでもしなければ眠れなかった」ではサゲず、伊八が「あの三人、泣いて泣いて一睡もしてないんですよ」と言うと世話九郎が「それならあの三人を静かな部屋に案内してやれ」でサゲるというのは兼好オリジナルだろう。全編の浮かれ調子が実に心地好い逸品。

『初天神』『鈴ヶ森』『宿屋の仇討』と、どれもいろんな演者が手掛けているお馴染みの噺だが、兼好は会話の妙がケタ違いで、リズムとメロディの心地好さと独特な演出で新鮮に笑わせてくれる。さすがは兼好という三席を堪能させてもらった。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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