広瀬和生の「この落語を観た!」vol.38
8月8日(月)昼
「こみち噺研究会」(8/6の会の配信をアーカイブで視聴)
広瀬和生「この落語を観た!」
8月8日(月)の演目はこちら。
柳亭こみち『新版お民の度胸』
柳亭こみち『姫、憧れる』
~仲入り~
柳亭こみち『らくだの女』
こみちが「女性ならではの噺」を独自に作っていくために神保町・らくごカフェで始めた勉強会の第6回。今日のネタおろしは『新版お民の度胸』と『らくだの女』。新作落語『姫、憧れる』はリクエストに応えての口演。
五街道雲助が持ちネタにしている『新版三十石』は田舎訛りの酷いお爺ちゃん浪曲師がトンデモ「三十石船」を演じる噺。これをこみちは女流浪曲師でやろうと思って雲助から教わったところ、「女流浪曲師は『三十石船』をやらない」という事実に気づき、同じ石松のネタでも『三十石船』に続くパートで女流もやる『お民の度胸』を、訛りの酷いお婆ちゃん浪曲師が披露するという噺に変えて演じた。こみちは元々『お民の度胸』を玉川太福に教わっていたのだという。
『姫、憧れる』はたまたま花魁の錦絵を見た姫様が「花魁の衣装を着て練り歩きたい」という願望に囚われる噺。婆やが衣装を揃えたものの、花魁道中で履く高下駄だけは手に入らない。「吉原に行ってみたい」とせがむ姫の願いを叶えて籠に乗せて吉原に連れて行くと花魁道中に遭遇、籠から飛び出て花扇花魁から高下駄を譲り受けて、城中で念願の花魁道中を披露する。
『らくだの女』は“らくだ以上に乱暴な兄貴分”ではなく“綺麗なお嬢さん”が「私は馬ちゃん(らくだ)の女」と名乗り、フグに当たって死んだらくだの通夜をする噺。この上品な女は井筒屋という大店の“おこと”というお嬢さん。通りかかった屑屋はかつて井筒屋に世話になった縁から率先しておことに協力する。
らくだが“長屋の鼻つまみ者”という設定はそのままだが、屑屋が誠心誠意お嬢さんのために尽くすので、長屋の連中は香典を届けることに。因業な大家は当初、酒肴を出すことを拒否したが、踊りの名手おことは大家の許を訪れて見事な“かんかんのう踊り”を披露、大家夫婦はすっかりおことを気に入り、祝儀として積極的に酒肴を出す。棺桶は早桶屋でおことが再びかんかんのうを披露して祝儀代わりに作ってもらえることに。長屋の月番も踊りを見て大喜びで祝儀を出した。
届いた酒をグイグイ飲み、おことは大店育ちならではの鬱屈した心情を吐露し始める。窮屈な実家を飛び出たおことの満たされない心の隙間を馬ちゃん(らくだ)が埋めてくれた、非常識な馬ちゃんの言動が面白かったのだという。「私がもっとついていてあげればフグなんて食べずに済んだのに……私のせいよ」と嘆くおことを慰める屑屋。ところが段々とおことは酔いが進み、酒乱の本性が現われて……。
『らくだ』の陰惨な要素を排してカラッと笑える噺にしたのは良い趣向。「かんかんのうへの祝儀」で通夜の用意ができるという発想は見事だ。こみちならではの“女版”の新たな傑作の誕生だ。
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
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