広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.149
9月18日(月・祝)「SWAクリエイティブツアー」@本多劇場
広瀬和生「この落語を観た!」
9月18日(月・祝)の演目はこちら。
「明日の朝焼け~たかし11歳から退職までの物語~」
三遊亭白鳥『恋するヘビ女』
春風亭昇太『夫婦に乾杯』
林家彦いち『臼親父』
柳家喬太郎『明日に架ける橋』
今回の「SWA」は、主人公“たかし”の11歳から退職までの人生を4編の新作落語で描いたブレンドストーリー。2004年に始動した創作話芸ユニット「SWA」について、リーダー格の昇太は2007年2月号の『東京かわら版』の巻頭インタビューで「それぞれの噺が全体の流れの中でひとつのストーリーの一部として完結する、というのを最終的に目標にしている」と語ったが、それが初めて実現したのが、2007年9月に明治安田生命ホールで初演されたブレンドストーリー「明日の朝焼け」だった。彼らが演じたネタはもともと独立した作品だったが、それを“たかし”の人生を描くものとして再構成してブレンドストーリーとなった。今回のSWAはそれをリニューアルして再演したもので、僕が観たのは4回公演の千秋楽。
『恋するヘビ女』は北海道の小学生たかしが東京から来たチエコおばさんから“恋の方程式”を伝授され、初恋の相手マユミにそれを実践しようとする噺。マユミには好きな男の子がいると知ったたかしは受け売りのレッスンでマユミを応援する。“夜明けのスキャット”“レッドスネーク、カモン”等々、懐かしネタ満載な中で、2007年にはなかった“たかしが「とーげつあーん!」と叫ぶ”一幕が登場。
『夫婦に乾杯』は「結婚7年でいまだに新婚みたいに妻と仲がいい」たかしが商品ネーミング会議で世間の夫婦とのズレを部長に指摘され、帰りに立ち寄った居酒屋の店主夫婦の「喧嘩するほど仲がいい」を参考にする噺。会議での部長の発言の数々が爆笑を呼ぶ。2007年とはだいぶ変わった印象。「とーげつあーん!」もアドリブで登場。
『臼親父』は年を経て倦怠期を迎えたたかしが妻に責められる日常の憂さを晴らす“部屋の隅っこでの独り飲み”の最中に「猿蟹合戦」の世界に迷い込み、臼として猿と戦う噺。ヘビ女チエコおばさんは牛のフンとして登場。現実世界に帰ったたかしは臼のときに発揮した勇気を実生活でも発揮、妻に見直される。ここでも「とーげつあーん!」炸裂。
『明日に架ける橋』は白夜書房のムック『落語ファン倶楽部』Vol.3付録CD連動企画の三題噺として2007年に創作されたもの。お題は「2007年問題」「バイオエネルギー」「吾妻橋」で、付録CDでは昇太が演じたが、ブレンドストーリーでは喬太郎の持ちネタとなった。還暦を迎え定年退職したたかしは長年のサラリーマン生活を終えた虚無感で不機嫌になり、初任給で買った古い背広を着て外に出ると、通い慣れた吾妻橋で同級生と出会い、互いの古い背広を「白線流し」さながらに結びつけて隅田川へ流そうとすると、同じ境遇の男たちが次々にやって来て仲間に加わる。二人は吾妻橋を後にして“サラリーマン酒場”へ。「とーげつあーん!」とは言わない代わりに『ミユキ野球教室』でお馴染み「♪服地はミユキ~」をフルで歌った喬太郎、ウルトラマンタロウの“うす怪獣”モチロンが台詞に登場したのはこの日だけのアドリブらしい。
4人で紡いだブレンドストーリー。白鳥、昇太、彦いちが大いに笑わせ、最後は喬太郎が(笑いを交えつつ)人情噺のトーンできっちり締めると、高座後方スクリーンの映像と共に音楽が流れる中、“たかし”の人生の長いドラマを観終えた感動の余韻に浸ったのだった。
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
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