広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.166
3月14日(木)「立川談笑月例独演会」@内幸町ホールの演目はこちら
立川談笑『猫と金魚』
立川談笑『井戸の茶碗』
~仲入り~
立川談笑『四ツ谷ファイトクラブ』
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談笑の『井戸の茶碗』では、五十両を受け取れないと意地を張る千代田に対して屑屋が「この五十両を子孫のために残したご先祖の気持ちはどうなるんですか !? 遊んでて作った五十両じゃないと思いますよ! ご先祖に成り代わって言います。受け取れ!」と説教するが、千代田は「なるほど、もっともだ」と納得しながらも「それを受け取れないのがわしの浅はかさなのだ」と言って、受け取れない自分を顧みる。そんな千代田を見かねて「こうしたらどうです? 何か身の回りのものを五十両で売ればいいじゃありませんか。そこにある汚い湯呑みでいいですよ」と提案する、という展開。「すまんのう、何から何まで屑屋さんのおかげだ。この度は、人とは何かというのを教わった気がする。喉から手が出るほど欲しい五十両……娘にも良い身なりをさせてやりたい、しかるべきところに嫁がせたいと思いながらもそれができなかったのだ」と感謝する。つまり、通常の「大家の提案で高木が二十両、千代田が二十両、屑屋が十両それぞれ受け取る」というやり方ではない。これは素晴らしい演出だ。千代田にも共感できるし、筋が通っている。
この湯呑みが“井戸の茶碗”と知る細川の殿様が「これほどの名器を五十両とは、いい買い物をしたな」と言って三百両で高木から譲り受けると、その三百両を高木はそっくりそのまま屑屋に託して千代田の許へ届けさせる。(つまり通常の“折半”ではない) すると千代田は「そうか。実は娘が高木殿のことが気になって、何かと『高木様が……』と噂をしておるのだ。わしも高木殿は心根の真っ直ぐな方だと思う。しかるべきところに縁付けてやりたいと思っていた娘、これをもし高木殿が娶ってくださるのであれば……しかるべき家に養女に出してからでも良い、三百両のうちの幾ばくかを支度金として受け取り、高木殿にも持参金を受け取っていただきたい」と提案。高木はそれを快く受け、支度金として千代田に百両、自らは娘の持参金として百両を受け取り、世話になった屑屋に百両を渡す。「両家の婚礼はとんとん拍子に進み、二人は二年後に子宝に恵まれました」と地で語ってサゲ。実に気持ちのいい展開だ。現代の観客が納得できる『井戸の茶碗』を談笑は見事にこしらえた。
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仲入り後は「警視庁隠密捜査課 弥次喜多☆事件ファイル」の第二話『四ツ谷ファイトクラブ』。隠密捜査課の経理などの事務を担当しているアイちゃんという強烈な女性キャラが新たに登場。都内で三ヵ月に一度、密かに行なわれている地下格闘イベントで違法薬物の取引が行なわれていることを突き止めた北村は潜入捜査を計画。死者も出るという危険なこのイベントに、格闘自慢の矢嶋を選手として送り込む。矢嶋が勝てば三ヵ月後にどこでイベントが開かれるかがわかるということで、絶対に負けられない矢嶋は強敵ヘルボーイを相手に死闘を繰り広げる……。談笑がリアルに描写する迫真の格闘シーンに引き込まれる、格闘好きには堪らない傑作だ。