広瀬和生の「この落語を観た!」vol.69

10月3日(月)
「桃月庵白酒独演会“白酒むふふ~”Vol.25」」@練馬文化センター小ホール


広瀬和生「この落語を観た!」
10月3日(月)の演目はこちら。

桃月庵あられ『野ざらし』
桃月庵白酒『しびん』
桃月庵白酒『錦の袈裟』
~仲入り~
桃月庵白酒『らくだ』

前座がいきなり開口一番で『野ざらし』とは驚きだが、あられは11月に二ツ目昇進が決まっているので、師匠の白酒が促したのだろう。あられは二ツ目になると桃月庵黒酒(くろき)と改名する。「くろき」は本名の「黒木」に掛けたものだろう。

江戸から国に帰るので何か土産を買おうと道具屋を訪れた武士が、使い古しの尿瓶(しびん)を“しびん焼き”なる花器と思い込み、道具屋に五両で売りつけられる『しびん』。白酒が演じる田舎侍が実に生真面目で威厳があるのが何とも可笑しい。「右手に鉄扇、左手にしびんをぶら下げて」白昼威風堂々と歩く田舎侍の光景が目に浮かぶ。それを見てあれこれ噂する町人たち、仰天する本屋、戻ってきたのを見て慌てる道具屋など、それぞれが生き生きと描かれている。こういう他愛もない噺も白酒がやると本当に面白い。

『錦の袈裟』は白酒の演じる与太郎が圧倒的に可愛く、この与太郎と気が強い女房の会話も微笑ましい。可愛い声でオドオドした口調を交えて無邪気に話す与太郎のキャラは白酒にしか出せないもの。こういう与太郎だったら仲間外れにされないのも女房がいるのもよくわかる。この噺、圓生や小三治だと女たちが「お大名の隠れ遊び」と噂して与太郎を「殿様」と思い込むが、白酒は志ん朝と同じく楼主が妓夫に「あれは華族様のお遊び」と言って与太郎が殿様だとするやり方。与太郎だけモテて悔しがる連中の「女が来なくて暇だから布団の綻び縫っちゃったよ」「このアップリケお前が付けたの?」等のワイワイガヤガヤが楽しい一席。

白酒の『らくだ』は兄貴分(名乗らない)に脅かされて動く屑屋の姿がコミカルな長屋のドタバタ劇。酔った屑屋が「らくださんには酷い目に遭った」と語る体験談のくだりも、そこからすぐ屑屋が強気になって兄貴分を脅かす“立場逆転”に行くのであまり悲惨なムードにならない。らくだの兄貴分がガラクタを無理やり売りつけようと屑屋に言った「使える物だったら道具屋に売るんだ。使えねえから屑屋に売るんだよ、買え!」はらくだの口癖でもあったと後でわかる、というのは今回初めて聴いた気がする。

白酒は『らくだ』を途中で切らずに必ずサゲまでやる。死骸を焼き場に運ぶ場面もやっぱりドタバタ劇で、屑屋も兄貴分もベロベロに酔っ払ってる様子の可笑しさは演者の個性によるもの。焼き場の隠坊もまたベロベロで、「なんだ久さんか、どうりでガラ悪いと思った」とか「焼くって、後ろのヤツ(らくだの兄貴分)か? 生きながら?」等と言うのは白酒ならでは。死骸と間違えられた願人坊主が火の中に放り込まれて暴れ出し、「なんだこの死骸、酔っ払って暴れてるぞ」「しまった、らくだがトラになった」でサゲ。テンポ良く進行して胃にもたれない、胸やけのしない『らくだ』だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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