広瀬和生の「この落語を観た!」vol.36
8月7日(日)昼
「三遊亭萬橘ばばん場独演会3“まんきつの森へ”」@ばばん場
広瀬和生「この落語を観た!」
8月7日(日)昼の演目はこちら。
柳家ひろ馬『手紙無筆』
三遊亭萬橘『お菊の皿』
~仲入り~
三遊亭萬橘『船徳』
『お菊の皿』は、暑いからと仕事を怠けて隠居の家でゴロゴロしてる町内の若い男三人組に隠居が閉口して「怖い話で涼しくしてやろう」と番町皿屋敷の話をし、それを聞いた三人組がお菊の幽霊を見に行くのが発端。三人のうち一人はしばらく皿屋敷から足が遠ざかっていたが、他の二人が「知らないだろ、お菊さん凄い人気だよ」と誘いに来たので行ってみると劇場みたいになっていてビックリ、木戸銭とられて指定席に着くと、今やお菊はすっかりアイドルに…という展開。三人組にスポットを当てた面白い演出だ。
萬橘の『船徳』では、船宿の馴染みの男が連れに「あなたが神経痛で腰が痛いと言うから」と舟を勧めて若旦那の客になる。泳げないから怖いと言いつつ舟に乗った男が船頭の酷さに呆れると、馴染み客のほうが「あなたは素人だからわからない、私は玄人だから」といちいち若旦那を庇い続ける、その無理やり加減がバカバカしくて楽しい。何もかも「河童のせい」で済まそうとしていた若旦那、川の真ん中で「親方に『無理だと思ったらすぐやめろ』と言われてますから」と仕事を放棄。歩いて岸まで行く羽目になって「あなたが舟で行こうと言うから」と言われた舟好きの男が「あなたがもっと頑張って断わってくれれば」と反論する可笑しさは萬橘ならでは。若旦那のサゲの台詞は「船頭を二人ばかり雇ってください」。ワガママな若旦那の可笑しさのみならず、舟の玄人を自認する客の存在が際立つ独特な演出だ。冒頭で親方に呼ばれて「小言だ」と勘違いした船頭たちが告白する「あんなことで親方怒らないと思うけど…」の数々のうち、新造船にやらかした呆れた失敗は『船徳』史上類を見ない。
夏らしい二席を堪能。マクラもたっぷりで大いに笑わせてもらった。
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo